Vol.36 2010.4.9
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

遥かに ひたむきに まっすぐに 美しき心と本物のプライドへ続くみち/前編

有限会社幸伸食品 代表取締役 久保博志

 すべての商品に心をこめて量ではなく質で日本一を目指す会社がある。常に行動することで志を示してきた経営者の背中は時に厳しく、ひたむきで、限りなく優しい。今回は美しき心を目指す誇り高き経営者からのプライスレスメッセージ。その前編です。

今、あらためて企業に社会性が求められている

―景気回復の足取りも重く、特に中小企業には厳しい状況が続いていますが、 現状をどうご覧になりますか

 いま企業にとって、あらためて求められているのが社会性なんですね。社会性ということをきちんと意識するとわかりますが、社会性には常に責任がついてくるんですね。雇用の問題にしても、みんなそうなんですよ。
 会社が存続するというのはこれは規模に関係なく、大企業も町の小さな商店も同じなんですが、社会に必要だからなんですよね。よく、「勝ち組」「負け組」というようなことを言いますが、規模が大きい、知名度がある、儲かっている、業績がいいから「勝ち組」なんだという単純なことではないと思います。
 そういうこととは別に社会に必要だということになれば、例えばおじいさんとおばあさんと2人きりでやっているような小さなお惣菜屋にしても、お客様が来て存続していくわけです。つまり社会性があるということですね。もう少し詳しく言えば会社が社会になくてはならないものであり、商品も社会になくてはならないものであるというこの2つがそろえば、存続するんですよ。逆にいえば倒産する、仕事がなくなるというようなところは社会性がないということになります。
 ここをしっかり経営者も社員も自覚してやれば、基本的には景気変動の問題じゃないんです。もちろん景気の影響が全くないわけではないんですよ。ただ、大事なのは景気変動や社会情勢に必要以上に振り回されないということですよね。
 社会で必要とされること、このことを目標にしているのかどうか、そしてそのために何をやっているかどうか。目標と実際にやっていることがうまくつながっているかということですね。

−そうすると実際に目標通りにやっていくということが難しいということになるのでしょうか。

 誰かができて誰かはできないということではないんですね。個人にしても企業にしても得手、不得手があります。探せばみんな優れたものを持っていると思います。これは神様が按分で与えているんだと思います。もちろんこれは宗教や信仰の話ではないですよ(笑)。
 すべての人が生まれてきて、教育を受ける中で、それぞれにあわせて授かってくるのだと思います。

独自性を高めることが強みになる

−しかし実際には差が出ていますよね。

 それは本人の努力、人との出会い、常日頃の生活スタイルなどから差が出てくるということですね。企業も一緒です。ですからこれについては負けないという得意分野を早く見つけ出してそれに特化していくことですね。特に中小企業はそうしなければだめですね。独自性が高める、オンリーワンを目指すということですね。

−そうすると社長にとって豆腐と出合った時にこれはというのはあったんですか。

永平寺

「永平寺心やすらぐごまどうふ」と「湯葉とろとうふ」

 これから日本は益々高齢化が進みますよね。そうすると年金などの社会保障制度が不安だということで、それが現役層の負担の増加につながり、相対的に余裕がなくなってくる。親の面倒を子がみるというのは社会的な風習でもあるわけですが、生活に余裕がないから若い人はみたくてもみられなくなってくる。
 そうするとどうなりますか。高齢者は自分で自分のことをしなければいけなくなりますね。できるだけ健康管理をきちんとして死ぬまで元気でいたいと思うわけです。

−豆腐というのは健康食品としては非常にいいものですよね。

 これからますます健康意識が高まって、自然食品は間違いなく見直されると思います。私どものところでは、豆腐、永平寺でもともとは作られていたごま豆腐を作っていますが、永平寺はご存じのとおり曹洞宗の総本山で、道元禅師がその開祖です。道元禅師は禅など日々の修行の中で食というのを非常に重要視していたんですね。より自然なもの、日本人の体に合うもの、具体的に言うとこれは植物性たんぱく質なんです。大豆はその中の一つで他にはゴマ、葛、いも、昆布などがあります。こうした自然食品をいかしたものが精進料理として現在に伝えられているわけです。
 我々が扱っているものはこの大豆を原料にしたお豆腐なのですが、お豆腐というのはすでにみなさんよくご存じのとおり、日本人の暮らしの中に深く入っておりまして、いわば国民食になっているわけですね。

−1977年の創業とうかがっています。最初の頃はご苦労も多かったのでしょうね。

 もちろん最初から、何でもいろいろとあるわけでなくて、進んでいくうちにいろんなことにぶつかっていくわけですよね。
 進んでいく中で重要なことは、マーケティングですね。お客様の要望として何が求められているのか、社会がどう変わろうとしていくのかを正確に把握するということです。それをもとに、よりいいもの、よりおいしいものを作り出していくわけですが、そのためにはどういう設備が必要で、どういう手順で作って、どういう風に販売していくかということが次々に出てくるわけです。これは手順に従って一つずつ順番にやっていくしかない。
 実際のやり方としては私どものところでは全て内製化して、自分たちでやるという手法を取っています。これが大きな特徴です。素材の開発から、生産システム、マーケティング、サービス、小売販売まで、行う。ものを作るという川上から販売までの川下まで、そのすべてを従業員が約30人のこんな小さなお豆腐屋で一元化しているところにうちの強みがある。

−従業員が約30人ですと、そういったことをやると一人何役もこなさないといけなくなりませんか。

 そうなります。私のところでは入社するとメインの仕事を決めますが、メインの仕事の前の段階と次の段階の仕事、いわば右手と左手の仕事はメインの仕事と同等にできるようにするという教育をおこなっています。メインの仕事に加えて最低2つはできなければだめですよということですね。これは最低ですから場合によってはもう少し増えたりもします。
どういうことかというと社会の中では人間は一人では生きてはいけないですよね。必ずそれぞれの役割があるわけです。
会社の仕事も同じです。右と左、前後の仕事があって自分の仕事が成り立つわけですから、ある程度理解して、いざという時にはそれができなければいけないということです。それを基本にして、それぞれ個人の能力の差もありますから、そこを見極めながら磨きをかけていくということですね。

−2000年度から9年連続して、農林水産省「優良ふるさと食品コンクール」で受賞をされているということですが、何か特別なことをやられたのですか。

 特に賞を狙っていたわけではないんですよ。ただ、農林水産省の方から聞いた話では、全国で9年連続どころか3年連続で受賞した企業はうち以外にはないそうです。
 うちの会社に入ってきた人間に、私はなぜうちに来たのかと尋ねます。そしてうちに来たからには一緒にこの会社を日本一の会社にしようといいます。会社の目的は社会性だといいましたよね。うちの場合には日本一の会社にしようということを大きな目的として掲げているんです。ちなみにこの場合の日本一というのは売上や組織の大きさではなくて、質で日本一にしようということなんです。気持ち、考え方、心そして意気ですね。こうしたものがそろわないといいものは作れません。
 この目的をめざして、いろいろとやっていたら結果的に農水省から、表彰してくださるということになったわけです。ただこうした賞をいただいたことで、どういう考え方でやっているのか知りたいということで味の素や伊藤忠といった大手企業のトップの方たちがうちにお見えになられました。こちらも勉強になりましたね。

一番大事なのはやはり人

−日本一の会社になるために具体的には何をされているのですか。

 会社にとって大事なことが3つあります。中でも一番大事なものはやはり人なんですね。人を育てるということが一番です。二番目が量を追うのではなく質を求めるということです。三番目が時代適応、時代の変化にあったことをやっているかということですね。この3つが基本なんです。

−それぞれについて少し詳しくお聞かせください。まず一番大事な人についてですが。

 我々はものづくり、製造業ですが、製造業の会社というのは常に開発しなければならなくて、このことを怠ったらもう先はないわけです。開発をやり続けなくてはならない。それができなくなったら会社自体がなくなってしまうんです。この開発をやり続ける原動力が人なんです。
 単純なお豆腐、単純な商品ということでは、他にアウトサイダー、競争相手がいくらでもいるわけです。そうすると量の競争になって最後には必ず価格競争に巻き込まれるんです。そして、どんどん寿命が縮まってしまいにはつぶされてしまう。
 うちの場合も、お豆腐がうまくいって体力のあるうちに、次はどう展開するのか早く手を打つ必要があったわけです。
 そのために、お豆腐をつくるためになにが必要でほかに何ができるかというのを改めて見直しました。原料はまず大豆ですね。それから中間工程で豆乳、おからも出来ますね。そういう素材でもっといろいろな商品が作れるんじゃないかということを考えたわけです。
 そこから生まれたのものとしてはスイーツがあり。いい例が豆腐生チョコレートですね。これは食べていただくとわかりますが、半分以上がお豆腐なんです。他にもお豆腐を使ったシューマイやハンバーグといったものがあります。
 実際毎年2けた以上の商品が生まれてきていますが、それだけの商品を生み出すことができるというのはやっぱり人なんです。

豆乳を使ったスイーツ 「豆乳チョコレート」と「豆乳チョコ餅」

−やはり機械ではできない部分も多いのですか。

 結局いくら機械設備がIT化、ハイテク化してもそれを動かすのはやっぱり人ですからね。機械ではできない部分はまだまだたくさんあります。  例えば人には話す、心を伝えるという能力がありますよね。言われたとおりに同じものを作り出すだけの機械と違って必要に応じて少しずつ調整する、変えていくこともできる。
 もちろん機械は正確に数をこなすことができますから、ある程度になったら機械にシフトした方が安全性も高いし、均質なものができる。ただ機械の怖さもある。間違ったら間違ったままなんですね。そこが昨今の食品に関する様々な問題の一因になっているわけです。そうしたことをきちんとわきまえなければいけないわけですね。

−社員の方はどうお感じになられているのですか。

 うちに入ってきたときに雰囲気が違うし、発想が違う、自分の人生が変わるなと感じたという社員が多いですね。ちなみにうちの社員構成は20代、30代が全体の70%近くを占めておりまして、全体的には非常に若い。世の中どんどん若い人が出てくるわけですから、当然、商品開発にもいい影響を及ぼしていますね。

−産学連携でも商品を開発されているとのことですが。

 「こんな難しいことを、今までに相談を受けたことないよ」といわれるようなことを相談しています。
 なぜ産学連携かというと、我々は実務的にやってきましたので、どうしてなのかを科学的に立証することがなかなかできない。一方大学というのは、ちょうど逆でそういうことを専門的にやっているわけです。実務と論理、協力することで双方にメリットがでる。ですから相談すると一生懸命やってくれるんです。うまくいかないという話も聞きますが、それはおそらくきちんと話し合って順序だってやっていないからだと思います。時間も金もかかるものですから思いついたようにやっても駄目ですよね。

量ではなく質を追う

−量ではなく質を求めるということについて少し詳しく教えてください

 うちの会社のテーマは「健康」と「幸せ」なんですね。健康でありたい。幸せになりたいということですね。これは勿論、お客様、社員もということですね。
 例えば、人間が、朝になったら起きてお天道様(太陽)のほうを向いて活発に活動する、食べる、仕事をする、こうしたことは何のためにやっているのでしょうか。そこにあるのは、生き物はすべていつの時代でも健康でありたい、幸せになりたい、これしかないと思います。
 だったらこれを目標にしようと。やること、言うこと、為すことすべて健康と幸せなんです。だから社名も幸せに伸びるということで、幸伸食品としたんですね。

−商品に人気が出て注文が増えると量への対応を考えなければならない局面も出てくるんじゃないですか。

 社員とも相談しますけれど、会社の規模を大きくして売り上げをどんどん増やすというのは社員も望んでいないと思います。一方で社会に広めていきたいという思いは当然ありますが、きちんとやるべきことをやって、それを積み重ねていけば必然的にいい結果につながっていくと思います。

時代の変化に適応する

−変化、適応についてお聞かせください。もともと豆腐というのは商品としては、扱いにくい特性がありますが、それに対しても独自の工夫を凝らされているとのことですが。

 もともと豆腐というのは重たい、日持ちがしない、水のように砕けやすい、それから価格が安いという特性があって、地元で作って地元で販売するという形が多かったんです。しかし、うちは当初から全国に出すことを考えていて、そのためには何が問題なのか、またそれをクリアするために何をすべきなのか、何が足りないのかということを追求しました。同業者からは、「なんで全国に出すのか。馬鹿じゃなかろうかと」まで言われましたね(笑)。
 製造ラインも自分たちで工夫して、工場内には一定の温度と湿度が保たれるようにしました。資質を保つための発泡スチロール容器の開発から、輸送中の温度管理のための氷まで工夫しました。そのための試行錯誤は何度も重ねました。最後に残ったのは価格という問題です。それまで大体お豆腐というのは100円くらいだったのですが、倍の価格200円でも納得していただけるようなものを作れないかと。単純に100円のものを200円で売りつけるというのは許されませんが、しかし、価格が2倍になってもお客様がこれだったらと納得し満足されるようなものだったらいいわけですね。そういう発想で作ったわけです。うちはマーケティング、営業までやりますからそういう意味では、この品質でこの価格だったら売れるということがわかりやすかったですね。

空気中の菌を殺菌するオゾン空気清浄機 工場内の温・湿度の変化を抑える
断熱材を入れた二重屋根

―時代の変化ということではここ何年かで大きく変わってきているという印象はお持ちですか。

 完全に変わりましたね。これからは環境や資源といった問題が間違いなく企業の盛衰に大きく影響してくる。一時、小麦やトウモロコシ、大豆が暴騰したことがありましたよね。古くはオイルショックの時には石油もそうでしたよね。
 まだまだ恐ろしい時代は来ると思いますよ。今世紀中に水不足になって水の争奪戦が起きると思います。その後に来るのが食糧不足ですね。世界規模でそういう危機が来た時に、図体が大きいとおそらくにっちもさっちもいかなくなる。だから今の時代は大きいことはベストではなく、むしろこじんまりと経営体力を強化すべきだと思います。そうした企業の方がただ大きいだけの企業よりはるかに時代の変化に適応できるんじゃないでしょうか。そういう意味では中小企業のほうが強いと思います。
 ダーウィンの法則というのがありますよね。その中で、砂漠に生き残ったものは力のあるもの、大きいものではなくてもっとも砂漠という厳しい環境に適応したものだと言っています。砂漠という環境を経済という環境に置き換えるとわかりやすいと思います。
 時代が変革する中で、どう位置するか、対応していくか、経営者は常にそれを意識していなければいけないということですね。ここが一番重要なんですね。いずれにしても中小企業も世界全体の動き、グローバルな視点を持つことがますます求められますね。

「幸家」:感性に訴えるおもてなし

−販売拠点である「幸家」(さちや)について教えてください。どのような役割を期待されているのですか。

 幸家は、自分たちが延々と作ってきたものを直接お客様にお出しして、お叱りをいただくか、おほめの言葉をいただくか、それを確認するためのアンテナショップなんです。それまではつくるだけで、お客様の顔を直接見る機会がなかった。お客様の顔を直接見ながら、情報を受発信するための基地が幸家なんですよ。

−お店のコンセプトも独特なものだということですが。

 人間は、目、耳、鼻、肌で感じる、舌で味わうという五感で物事を感じ取って生きています。幸家は全体のデザインとし、この感性ということを意識してつくられています。感性に訴えるおもてなしをしたいということですね。私自身スウェーデンやノルウェー、デンマークなどの北欧諸国を20日ほどかけて回りました。あちらでは自然を非常に大切にしているんですね。集中的に、こうした感性をテーマにして作られたものを見てきたんです。それと国の中小企業経営革新支援法の承認をいただきまして、お金はいただきませんでしたが考え方などでご支援をいただきました。
 幸家は、まずいらしていただいて、駐車場で降りてふと一方を見ると、郷愁を誘うような田舎の景色が目に入ってきて、心の落着きが得られます。それから山のほうをうかがうと、一年中鶯が鳴いている。裏には竹藪が広がり、客席に座ったままで「何か動いたと思ったらウサギが走っていたよ」「イノシシがどうやらタケノコを掘ったんだね」なとどいうことが感じ取れるロケーションになっています。夜になれば満天の星空にお月さま、そういう情緒的な雰囲気なんです。
 店内は、一歩入ると、はっとするほどの明るさです。この明るさが大事なんですね。それから最後にお料理を見て驚きます。「本当にこれお豆腐でつくっているの」と。そして実際に食べていただくことでいろんな味わいが楽しめる。楽しいということですね。それで価格もこれくらいだったらとご納得いただければすべてよしです。おかげ様で幸家のリピーター率は実に98%に上るんですよ。

竹林を眺めながら食事が楽しめる アンテナショップ「永平寺禅どうふの郷 幸家」

−98%のリピーター率というのは驚異的な数字ですね。

 幸家では、お客様がお食事をされてお帰りになる時に、社員が「ありがとうございました」と言う前にお客様の方から先に社員に「有難う」と言ってくださる。普通は逆ですよね。それから「また必ずくるよ」と言ってくださる。「またくるよ」ではなくて「必ずくるよ」なんですね。ありがたいですね。「こんな店はないよ。涙が出る思いだよ」と社員にはいつも言って聞かせています。
 お客様の中には、京都、大阪の方もいるし、東京の方もいらっしゃる。遠くの方はそうしょっちゅうこられるわけではないが、「こちらに来ることがあればまた寄るよ」言って下さる。  バスで来たお客さんは「お寺の途中であそこにたまたまよったら、あれが良かったこれが良かったと」自慢話のようあちこちで言って下さる。しまいにはJTB様がお客様を入れさせてくれと頼みにきました。
 それとインターネットも含めて販売している商品も人気が出てきていますね。これはもらったお客様のほうから電話がかかってくるほどです。 家族など大切な人を連れてきたいとおっしゃるお客様も多いです。複数できた女性のお客さんがお金を払う時に「うちのおじいちゃんおばあちゃんも連れてくれば良かった」とか「家族でまた来たい」とかそう言って下さる。
 平成16年に秋篠宮様が来られた時もそうでした。紀子様が、おなかが大きくてお一人でお見えになられたのですが、お帰りになられる時に「また必ず、今度は子供たちを連れてくるからね」とお声をかけてくださいました。



☆★☆★ ☆★☆★ 後編につづく ☆★☆★ ☆★☆★