Vol.29 2009.9.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

「常識にとらわれない奇抜な発想と技術が絶え間なく驚きを進化させる」/後編

株式会社仁多産業 代表取締役 川西一夫

 常識にとらわれない型破りの発想が、次々に新しい技術と驚きを生み出していく。一つの型にはまらず、多様性を求めるユニークな経営者のもとには常に様々な感性と価値観を持つ人材が集う。「まず踏み出すこと」、今回はそっと背中を押して勇気がもらえるプライスレスメッセージ。その後編です。

・・・前篇では、サラリーマン時代のお話から、クリーニング業での起業、そして現在のジーンズ加工への転換、転換後は業界の常識にとらわれずに次々に新しい技術を生み出したところまでお話を伺いました。(前篇部分の詳細については全国連HP上のバックナンバーをご覧ください) 後編では、経営危機の話、感性・ブランド、人材育成、商工会への期待・要望など幅広くお話を伺います。
(前篇部分の詳細については全国連HP上のバックナンバーをご覧ください)
http://mag.shokokai.or.jp/htmlmail/p_msg/200908.htm

取引先の倒産による経営危機

−これまでにはいいことばかりではなくご苦労も多かったと思います。中でも取引先の倒産で大変厳しい時期があったということですが。

 じつはこれは山陰の気質だと思うのですが、このあたりの企業というのは、努力して商品開発をしたり、ものづくりを極めていくことは得意なんですが、営業行為、知らない人にも物怖じしないでどんどん物を売り込むというのが下手なんですね(笑)。うちの場合も、一時営業は三菱商事や伊藤忠などの大手さんとも広く取引のあった岡山の会社にすべて任せ、開発して特許をとったものをそこの名前で販売してもらうほどだった。売上金も一度すべてその会社に入ってから営業経費を抜いたものがうちに回ってくるというものだった。それも、現金ではなくて手形でもらっていたんです。
 ですからそこが倒産すると、たちまちうちも苦しくなったわけです。ただ幸いなことに、それまでに金融機関の方にうちがどういうことをやっているかというのを十分知ってもらって、面白いことをやっている企業という評価をいただいていたんです。
 県の保証協会さんが中心になって、当時融資をしてもらっていた島根信金さん、山陰合同銀行さん、中小公庫さんなどに集まっていただいた。計画書を作って持っていったら「営業を任せるところがなくなったというのはむしろプラスじゃないかと、直接取引をしたら利益率ももっと上がるんじゃないかと」言われまして支援してもらうことができたんです。それ以来、金融機関に対して、半年ごとの成果と考察、次の事業計画、人の問題、設備投資、取引先の関連、資金繰りまですべてオープンにして、きちんと出すようにしています。
 また、この時に手形の危険性は身に沁みました。それ以降は、同じ轍を踏んではいけないですからたとえ相手が大手さんでも一切手形は受け取らないようにしています。すべて現金でお願いしています。もちろんうちからの支払いもすべて現金です。

感性が必要なものは日本に残し、自社発のブランドづくりを目指す

−海外展開について教えて下さい。

 中国とフィリピンに工場があり、ベトナムのハノイにも進出の準備を進めています。また同じベトナムのホーチンミンには人を送って技術供与も行っています。 もう繊維関連のものづくりで日本に残っているのは一部分ですからね。ただし、その一部分がアジアのファッションと流行を動かしているわけです。
 流行を作っているのは日本ですが、一方で圧倒的にものを作っているのは中国や東南アジアなんです。そうした実際にものづくりが行われているところに対して、日本で開発した技術をオープンにすることで、対価を得て、ビジネスにつなげられればメリットがある。開発した技術は2年、3年もつものもあるけれど、1年で消えるものも多い。技術というよりも流行によって大きく左右されますからね。そうすると早めに出した方が得であることが多いわけです。
 もちろん出さない技術もあります。ここに残しておくのはファッション性が高くて手間のかかる部分、感性が必要とされる部分ですね。言いかえれば付加価値の高い部分です。

−感性というのはどうとらえていますか。

 ここでも手作業で、人がやっているのですがその辺の感覚ですね。日本でやる場合にはこだわりがあって、ある意味で芸術的というか、職人さんの世界のものをつくる。ところが中国でやるとそういう感覚はなくて、単なる作業なんですね。一つ一つこだわってファッションを作り出しているという感じではない。どちらがいいということはありませんが、似たようなものを大量に作るんだったら中国などで作った方がいいですし、付加価値の高い職人仕事はやはり日本のほうがまだまだ上だと思います。

−技術提携などはやっておられるのですか。

 うちの場合の技術提携というのはもらうのではなく、出すほうですね。例えばロスアンゼルスの会社と提携を結んでいますけれど、うちの技術を向こうに持って行って、売れたらロイヤルティーをもらうという形です。ヨーロッパの会社とも同様の契約を結んでいます。
 海外から技術を求める引き合いも多いし、ヨーロッパでもメイドインジャパンの商品の評価は確立されています。アメリカも同じですが、ブランドの数がものすごいですよ。以前向こうに行ってこれはいいなと思うものを買ってきたら、実はうちが日本で作ったやつだった(笑)、なんていうこともありましたね。

独創的な技術開発の積み重ね

−今後の展開について

 本質的に何に取り組んでいくのかいうところで、うちは今までは加工の技術ということにこだわってやってきましたが、少し視点を変えなければいけないかなと考えています。
 今はジーンズの生地があって、縫製屋さんがいて、最後に付加価値をつける加工がありますが、基本的には我々、加工屋が商品のコントロールをしているわけではなく、メーカーから受注した縫製屋さんが最終的な商品を提供し、コントロールしている。
 しかしよく考えてみると工夫を重ねて実際に新しい商品を開発しているのは自分たちなのに、縫製屋さんの単なる下請けみたいになっているのはおかしいのではないかと。これが加工が必要ない服などの場合は縫製屋さんが生地を買って、縫って、デザインをしてメーカーに渡してもいいわけですが、ジーンズの場合には形が変わるわけではありませんから、付加価値をつけるのは我々なんですね。ところが商品のコントロールは我々にはない。ここをちょっと変えてみたいなと考えています。
 具体的には逆に縫製屋さんにうちからお願いするようにする。うちのオリジナルの新しい発想で加工されたものについては、どこでどのようにして売るのかはうちが決める。うちがブランドを作り出して売るんだということですね。
 大切なのは売るところをきちんと押さえるということ、今どこが一番もうかっているかというと、実はユニクロさんを見るとわかりますが、売る方なんですね。
 もう少し加工による付加価値部分をきちんと評してもらえるような売り方、ビジネスとしてうまくいくやり方を模索しているといったところですね。

型にはまらない人材の多様性と流行を見据えた数多くの引き出し

−採用を含めた、人材育成についてお話し下さい。

 大手企業と違って、我々みたいな中小企業では社内教育がなかなか十分にできない。うちには松下で管理職だった人間に何人か入ってきてもらっているので、彼らに新しく入った人の教育をお願いしています。20代、30代の生え抜きの人間が経営に参加するようになれば変わると思いますが、それまでは大手企業できちんと教育を受けた連中が、品質管理や原価管理などを含めて業務をしっかり教えていくという体制ですね。  ただ人材育成で注意しなければならないのは、一つに型に固めてしまうとそれしかできない様な人間になってしまうということです。
 ジーンズをつくるには50年、100年前からある昔のジーンズのイメージを追いかけ、大切にしてジーンズを作る人間や、ロック歌手がはくような(笑)奇抜で派手なものをイメージできる感性の人間などいろいろな人間が必要なんです。一つの方向性だけじゃなくていろんな可能性の人間が混ざりあっていることの方がはるかにいい。ただ、不思議に そういう人間、感性のある人間というのは固まるんですよね(笑)。

−面白い会社だと思って新しい感性を持った人が入ってくることもあるわけですね。

 先日も地元の高校生の集団が工場見学に来ましたが、身近なこんな山の中でスマップのメンバーや、いろいろな芸能人もはいているジーンズが作られているなんて誰も知らないから、びっくりするんですよ。そういう面から考えると地元の高校生に興味を持ってもらい、見学に来てもらうというのはいいことだと思いますよね。
 これまでは地元の人間はこんなことをやっているなんてあまり知らないから少し離れた地域から入ってくる人が多かったが、こうしたこともあって地元から入ってくる人も増えてきましたね。

 
  本社工場

−ブランドについてお聞きします。最近各地でブランド作りが盛んですが、なかなかうまくいかないのが現状です。お考えをお聞かせ下さい。

 うまくいかないのは販売面での戦略、どういうルートでどういう層に売り込んでいくのかという考察が欠けているんじゃないでしょうか。うちでもいろんなことをやりますが、どのへんがきちんと買ってくれる層なのかというのを把握して、その何パーセントかを狙い打ちして商品開発をするわけです。その辺を明確にしなければだめですね。ただ漫然とジーパン売ってということでは、ユニクロさんの千円を切るようなものから、一方では4万、5万のものもありますからね。それと大阪と東京では色目とかも微妙に違っていたりしていますからね。そういうこともはっきり把握して狙いも明確にすればそんなに外れることもないとは思いますよ。
 それと今はブランドの数も個人ブランドのものも含めると相当な数になりますから、他と差別化できるかどうかということですね。

−社是、あるいは社是ではなくても会社としての理念、スタンスとはどういったものでしょうか。

 特に堅苦しいものはないのですが(笑)、ただ、ファッションというものは非常にめまぐるしく流行がかわりますから、その辺りに敏感でないといけない。 今年、ヒット商品を作って売れても来年売れるとは限らないですからね。
 常に先のことを考えていろんな引き出しを作っておいて、市場の動きに対応して何でも出せるようにしておかないとならない。流行がどう動くのかもちろん自分たちでコントロールできるものではありませんから、どういう方向に進んでもいいように用意しておくということですね。
 すぐに役に立たなくてもいいんです。例えば形状記憶加工、これはジーンズのしわも立体的に記憶させるもので、買った時のひざの裏側などのしわの形がずっとそのまま残っているというものですが、10年くらい前にうちが最初に出した時には国内の商社は「すごいのはわかるけど、それが何なの?」と馬鹿にした。それが、今は爆発的にヒットしている。
 これはうちがその技術をロスアンゼルスに送って、まずアメリカで爆発的に売れて、続いて日本でも売れたもので、その時にはあわてた国内の商社からの問い合わせが何本もありましたよ(笑)。時間をかけてビジネスになるものもあるということですね。

まず踏み出すこと、そして同じ轍を踏まないこと

−差し支えなければ、趣味等についてご披露ください。

 どこまでが趣味になるかわかりませんが(笑)、というのはどこまでが趣味でどこからかが営業なのかというのがよくわからないんです。たとえば釣りですが、渓流釣り、磯釣り、船釣りと、お客さんで釣りが好きな人がいれば、十分話せるくらいのことは一時期集中してやりました。  ゴルフも同じです。お客さんから付き合えと言われればお付き合いできるくらいにはやりましたね。さすがに麻雀はそこまではやりませんでしたが(笑)、 こうしたことを一時でもやっておけば、たいていの話にふられても、釣りの話でも、ゴルフでも、地元の旬の食べ物の話でも対応できるわけです。趣味といえば趣味ですが仕事といえば仕事ですかね(笑)。
 ただ、最近は海外も出張が多くて土日が移動日のことが多いですね。すっかり釣りもゴルフもご無沙汰です(笑)。

−本メールマガジンの登録読者は約1万人いますが、若手経営者も多く、またこれから開業を考えている方もいらっしゃいます。こうした方々に対してメッセージあるいはエールをお願いします。

 若い人に言いたいのは何かをスタートさせるには、細かく計画を建ててという面もあるけれど、まず踏み出せということですね。問題のほとんどは、動いてみて、その時その時に発生するものですからね。
 まず動いて、何か問題が発生したら、若い時には汗を流して頑張ればいいわけです。それでもどうしてもだめだったら、知恵のある人に相談すればいい。踏み出す前に、リスクばかり考えすぎてしまったりするけれども、汗をかいたり、知恵を借りたりして一つ一つ解決できることは少なくないと思います。
 企業をスタートさせれば誰もが倒産するというようなリスクは負うわけです。十分計算して準備したから絶対に間違いないなんて言うことはそんなにはないですよ。そういう感覚でスタートされたらいいと思いますよ。
 それとこれも大事なことですが、同じ失敗はしないということですね。

相談、情報、ネットワーク、商工会への期待は大きい

−地域へのこだわりを強くお持ちだと伺っています。地域のあり方がいろいろと問われていますが、どのようにお考えですか。

 例えば東京のど真ん中、渋谷や原宿で同じことをやっていても埋没してしまいますが、田舎でやっているからこそいろいろな発想や開発したものを注目してもらえます。そういうところは地域のほうが、はるかにメリットがありますね。しかも田舎といっても、東京へは飛行機で1時間ちょっとだし、大阪へは車で3、4時間だから打ち合わせにもそれほど不便は感じていませんよ(笑)。
 様々な支援なども都会よりも得られやすい。具体的には資金面、開発面や知的財産など幅広く、行政や金融機関さんからの支援や指導を受けるチャンスがあるということで、これは、都会に比べて企業がはるかに少ないからですね。
 実際、地域にとってはある程度の規模の企業というのは貴重ですから、地域全体から大切にしてもらっているような面はあると思います。うちの場合も取引先が不渡りを出した時も周りが何とか存続させてやりたいと周りが言ってくれた。都会ではうちぐらいの規模では放っておかれて、それで終わってしまっていたと思いますね。そういう面では非常に助かっています。

−地域貢献ということではどうでしょうか。

 地域貢献というと大袈裟になるが、できることはしたいと考えています。 ここはホッケーが盛んで、高校ホッケーは、昨年はインターハイ優勝などの3冠を達成している。日本リーグのチームもあります。ただホッケーで大学に行って卒業して帰ってくる時の受け皿がないんですね。こうした問題は行政だけに任せられるものではないので、微力ながらそうした人たちを受け入れるということもしています。
 学校の工場見学の話を先ほどしましたが、夏休みなどにうちにバイトにきて卒業したらそのままうちに就職する子もいますよ。結局、このあたりの出身で地元に就職したいといっても、なかなか就職口がない。そういった人たちにも入ってもらうということです。こうしたことも地域貢献の一つだと考えています。

−最後に、地域経済の担い手としてのこれからの商工会に対する期待、要望等がありましたらお願いします。

 会社を起こして10年ほどは、長期資金などといっても、30歳そこそこで若すぎるし、担保といっても田舎ですからたいした担保もありませんし(笑)、民間では融資してくれるところもそうはありませんでしたから、商工会さんを窓口にしていろいろな制度融資を利用させていただきました。立ち上げる時にそうした資金というのは大きいですから、大変助かりました。うちは制度融資を利用しながら地盤を築いてきたといっても過言ではありませんが、他にもそういう企業さんは多いんじゃないですか。
 状況によっては民間の金融機関に行くよりも商工会に相談した方がはるかにメリットがありますよ。本当に頼りになります。
 情報も多いですね。例えばうちみたいなところが伸びる反面、日本では縫製関連の企業が衰退してきている。そうした中で、うちの仕事をやってくれるところがどこかにないかなどといった情報は大変ありがたいわけです。  以前にもちょうど形状記憶の線を入れる工場がほしかった時に、あそこはやめたがっているけど行ってみたらなんていう情報を商工会からもらって電子関係の工場を従業員ごと引き取ったこともあります。
 じっと待っているだけでは情報は手に入りません。商工会に実際に行って話をしてみる多くの情報があってびっくりしますよ。やめたがっている企業などなかなかオープンにできないような情報もあるし、やはり一企業では集めることのできない情報が集まっている。しかも簡単に紹介してもらえるのもありがたいですね。
 それと商工会同士のネットワーク。地域の産業の集積によって商工会にも得手、不得手があると思います。以前特許をとろうと考えた時に、わざわざ特許の事務に慣れている別の商工会の指導員を紹介してもらってスムーズに進んだことがありました。そうしたネットワークは今後も生かしてほしいなと思います。

−民間でも行政でもできないコーディネーター役としての役割でしょうか。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(平成21年7月10日インタビュー収録:文責「コンパス通信」編集部)