Vol.25 2009.5.11
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

「夢を真っ直ぐなストーリーで描きいつか正夢に変える」

株式会社 レガン代表取締役 砂川 匡

 WBC決勝の韓国戦10回表。粘った末のイチローの狙い澄ました打球は矢のようにセンター前に抜けて決勝点になった。株式会社レガンの砂川社長と全ての従業員の夢がまた一つかなった瞬間だった。今回はひたすらまっすぐに一つの道を突き進み、夢を正夢に変えていく経営者からのまぶしく一徹なプライレスメッセージ。その後篇です

・・・前篇では、変わり続ける手袋の話、22歳で開業されてからのご苦労、リーディングカンパニーへの取引を目指しての苦闘とDCブランドとの提携、さらには手袋に使われる特殊な技術についてもお話を伺いました。後篇では引き続きプロのための手袋の話から伺います。(前篇部分の詳細については全国連HP上のバックナンバーをご覧ください)
http://mag.shokokai.or.jp/htmlmail/p_msg/200904.htm

プロ用の手袋を作ることで技術と感性を磨く(つづき)

―御社の技術力を語る上では、イチロー、松井秀喜、丸山茂樹など多くのトップアスリートたちが御社の手袋を使っているということがありますね。 こうしたプロが使う手袋は、データひとつを取るにしても大変なんでしょうね。

 サイズ、色、デザインなど、今はコンピューターで処理していますが、昔はすべてそうしたものをカルテで取っていまして、カルテを重ねたものが何十センチにもなりました。とにかくオーダーメイドですからデータは莫大な量になります。
 選手の方からも「指が長すぎる」とか「もっと薄くしてくれ」など、絶えずいろいろな要求が出てきますから、常に話し合いを続けながら改良を続けているといった感じですね。うちの商品はOEMですから、ミズノさんやブリヂストンさんを通して指示を受けていますが、シーズンインする前のキャンプなどにはうちの担当が直接お伺いします。

−野球選手の場合、例えばイチロー選手など大体1年でどのくらいの量の手袋を使われるのですか。ただし相当手間がかかるわりには、一人あたりのロットはどうしても決まってしまいますから、利益を上げるのは難しいですよね。

 練習でも使っていますから、大体180〜200双くらいですね。これでは確かに儲かりません(笑)。プロ用については、完全なサービスです。俗に言われる健全な赤字部門ということですね。
 しかし一方で、いまの時代に日本国内にプロ用の製造工場がある意味は大きいと考えています。今、フィリピンとベトナムと中国、海外の三か所に工場がありますが、人件費を比べるとうちの縫製職人はほとんど大卒ですから、初任給だけでも18万円以上になる。一方海外の工場の人件費は月1万円くらいですから、比較するとかなりの差があります。しかし日本人独特の感性というものがありますからね。その感性に従って作られた手袋というのは、必ず日本人のプレイヤーには受け入れられます。
 それと、プロ用の手袋をつくることによっておのずから技術の向上が認められるということも大きいですね。彼らにとってホームラン1本の値段は何千万、ときにはそれ以上にもなるわけですが、ホームランをたくさん打つためには手袋が必要なんです。逆に言えば彼らにとって生活の糧に直結するものですから、当然シビアな注文が出てくる。そしてその注文に応えるために、我々はさらに技術をあげていく。野球自体が進化していますから、それに合わせて我々も進化していかなければいけないということです。

−感性というと少しわかりにくいのですが、もう少し説明をいただけますか。

 感性は私が一番大事にしているものです。日本人がもっている感性というものは、つくる方にも、使う方にも共通して存在するんです。地産地消ではありませんが、やはり使う人間と同じ国の人間が、その国でつくるのが一番なんですよ。一緒の気候、風土に育ってきたもの同士、何十年も同じ空気を吸い、同じ四季を感じながら育ってこなければわからないことなんですよ。これが感性です。
 例えば、フィリピン人やベトナム人がどんなに勤勉で器用だといってもやっぱり日本人とは違う。ベトナム人などは本当に勤勉だし、対日感情も悪くないし仕事もやってくれるんだけれど、言葉でうまくいいあらわせない微妙な要求はわかってくれない。これはどんなにしっかりした通訳を入れてもだめなんですね。
 彼らには彼らの感性があるわけです。これは日本人の感性と比べてどちらが優れている、劣っているというものではなくて全くの別物だということですね。 ですからうちの場合はできるだけプロ用のものは国内で作り、大量生産のものは海外で作るという体制をとっています。

妥協のないクラフトマンシップ

OEMに特化し、ものづくりに徹する

−手袋作りは労働集約型産業ですが、その中でも御社ではOEMを積極的に進めるなどして経営の工夫を図られているということですが。

 現在、ほぼ100%OEMです。基本的なメリットとしては販売面での手間が省けるということですね。逆にデメリットとしてはいつ切られるかわからない。
 それから、お得意様同士、競合するところがあります。例えばゴルフではミズノさん、ダンロップさん、ブリヂストンさんいろいろあるわけです。OEMのつらいところはここなんですよ。同じレベルの商品を売り込むわけですから、例えばミズノさんだけいいものを売って他を下げて売るわけにはいきません。ところが競合するところは少しでも相手より優位に立ちたいと思うわけですから、ここには大変な努力がいるわけです。

−OEMでは直接御社の社名が出ないということになりますが。

 これは考え方なんですね。業界で知名度を上げるのか、エンドユーザーに知ってもらうのか。そう考えた時に、スポーツ業界では単独歩きができない。トータルの中で存在することが多いものですから、一般の方にレガンという社名を知ってもらってもあまり意味がない。
 例えばミズノさんに新しいランバードという野球のブランドができましたが、これはスパイク、ストッキング、ユニフォーム、帽子、バット、グローブ、ボール、そして手袋のトータル商品なんです。ここから手袋だけ切り離してレガンにするといっても、そんなことは100%通りません。
 レガンという名前を打ち出してもあんまり意味がないとすると、その分ものづくりに徹した方がいい。生産性を高めたり、商品の向上を図った方がいいと考えています。

−手作りを大切にした労働集約型の企業であるということは、社員一人一人のスキル、能力を高めることが非常に大事だと思われます。社員の育成、技術の伝承についてはどういったことを行っているのですか。

 我々のコンペッターの多くは、野球用手袋専門、ゴルフ用手袋専門、あるいは釣り用手袋専門と専門でやっている。そうしたところと戦うためには専門家として育てる必要があるわけです。そのため一度ある部署に配属させたら、適性などによほど問題がない限り、徹底的に鍛え抜いてプロフェッショナルに育てています。
 扱う商品、部署ごとにそれぞれが独立する体制をとっていますが、その中で、絶えず予備の人間が存在するという形になっています。開発も3人がセットです。これは、誰かが、病気で倒れたり、事故にあったりするような事態に備えて会社として常に予備的な人員を確保しておくということですね。
 予備的な人員というのは、時系列に育てていく必要がありますから、先輩、後輩という組み合わせでグループ化します。その中で、手取り足取りでスムーズに必要な技術も伝承されていくわけです。それから3年間ほど海外へも研修に行かせます。うちが直営している海外工場でじっくりと現場を知ってもらうのが狙いです。


プロフェッショナルな技が要求される縫製現場

−今後の展開、抱負、あるいは夢といったらいいのかもしれませんがそういったものを聞かせてください。。

 当社としてのあるべき姿としては、基本的にはOEMの姿勢を崩してはいけないと考えています。ただし手袋が単独で歩ける業種もあるんです。例えばファッション手袋です。そうした分野では違った展開も考えられると思います。
 今、計画しているのでは、DCブランドとの契約ではなく、自分たちのオリジナルのブランドを作り出していこうということです。しかし、これだけ世の中にいろいろなブランドがある中で、我が社が新しいブランドを作り上げても、だれが相手にしてくれるのか、魅力を感じてくれるかというと簡単なことではないと考えています。そのためには、我が社を取り巻く周囲の方々の援助もお願いし、我が社しかできない商品、他がまねできない商品を作る必要があると考えています。

将来を見据え、必要なものは国内に残す

−砂川社長は日本手袋工業組合理事長でもいらっしゃいます。120年の歴史がある香川の手袋産業の現状とこれからについて、理事長のお立場からお聞かせください

 昨年、120周年を迎え初めて本格的な手袋の資料館が出来ました。5000万円ほどかかりましたが、その費用をねん出するために組合員全員に資金の拠出をお願いしました。結果87社組合員のすべてからご協力いただき、みなさんの手袋に対する愛情をひしひしと感じました。地域でこの産業を守っていると強い想いがあるのだと思います。私も理事長としては無論のこと、この業界に携わっているものの一人として誇りを感じております。

−業界全体としても御社と同じように海外に積極的に進出しているのですか。

 製造面で手袋業界は、他の業界に先駆けて海外進出は進んでいます。中国を中心にした東南アジアに展開していますが、気をつけなくてはならないのは、安易に下請けや委託を進めると、将来の競争相手として彼らを育ててしまうことになりかねない。彼らが力をつけて逆に日本に進出してくる可能性もあるわけです。
それと一番肝心なことですが、海外に限度を超えて製造拠点を移してしまうと日本の業界は空洞化どころか壊滅しかねないということです。
 必要なものを残し出せるものは出す。必要なのは、その見極めと国際分業体制の構築です。これは当社だけでなく業界全体に言えることで、私は何度も警鐘を鳴らしています。その場しのぎで何でも出してしまうのではなくて将来をしっかり考えて日本としてやるべきこと残してくれということですね。それとてできたら独資、自分の力でやっていただけたらなおいいのではないかと考えています。
 それと販売面ですが、これも今後は日本というマーケットにこだわらず、日本の感性を受け入れていただけるような先を見つけてグローバルなビジネスを目指していかなければいけないと考えています。

−最近、世界も視野に入れた地域発の新しいブランド作りが全国で盛んですが、なかなかうまくいかないのが現状です。ご意見をお聞かせください

 地域ブランドの多くが苦戦しているのは、基本的には行政指導型であるということ、ただしこれは頼っていく方も悪い。
 うちも補助事業を利用していますが、ちょっと違うのは、行政が金も出すからコンサルタントを入れてくれと言ってきた時は、はっきりできないとお断りしています。なぜできないかというときちんとしたストーリーができていない、別の言葉でいえば、夢。やがては正夢となるような具体的な夢が乏しいということなんですね。
 指定したコンサルタント、アドバイザーといっても時間があれば我々にもできるような市場調査が専門で、ストーリーもわからない、作れない。そんな人を押し付けられるのは問題ですね。今の状態では単にコンサルタントのために仕事を作ってあげているような感じですからね(笑)。
 コンサルタントやアドバイザーとして必要なのは、その会社や業界を良く知っている、理解している人間、そしてその地域だけではなく全国的な視点、あるいは必要であればそれ以上の視点で見られるような人ですね。

経営者と従業員が夢を共有化し実現する

−普段お考えのことなどについてもお聞かせください。座右の銘は何ですか

 座右の銘は「創業は易く守勢は難し」です。どういうことかというと、よく人生にたとえるのですけれど、子供というのは男女が出会って、愛し合えば自然に生まれてくるわけですが、それをどのように育てるかというのは非常に難しい。企業も同じです。今は1円のお金があれば会社ができますが維持・成長していくのが難しい。
 社員を雇うのは比較的簡単だけど一人前にしていくのは非常に難しい。お得意様も獲得するより、何十年もお付き合いをいただく方がはるかに難しい。
 肝心なのは絶えず新鮮味を失わないことです。そのためにはまず常に謙虚であるということですね。企業対企業で付き合っていても、人対人という部分が非常に大事です。これを忘れてはいけないと思います。

 
お客様へのお茶には花が添えられる

−その他、普段心がけていることがありましたら。

 経営者と従業員が夢を共有化することですね。経営者がテーマとして夢を与え、それを社員のみなさんがかなえていく。経営者が夢を持つことも大事だが、社員それぞれも夢を持っている。その社員それぞれの夢を会社はどのように吸い上げ実現してあげられるかということですね。ただし、100人いると100色の夢があるということだけでは困りますから、吸い上げてそれを統合していくということも必要です。それと常に次の夢へのステップを作っておくこと、これも大事なことだと思います。

−趣味について教えてください。

 やっぱりゴルフです。それと最近多忙で行けませんが、海が近いから船釣りですね。主にこの2つですから趣味は多くはないですね。
 土日には家内とドライブすることも多いですよ。いろいろ行きますが「道の駅」にも良く行きます。「道の駅」というのは置いている商品の9割が一緒なんですが、1割ほどよそにないものをおいてある。その辺を見比べるのが面白い。
 しかしとにかく行事が多いですね。今レガンの社長、海外工場のチェアマンという肩書も含めて、ちょっと多すぎるのですが20以上の役職を持っています。商売の妨げにはなりませんが結構疲れます(笑)。
 しかし小さな地域ですからしょうがない。地域にどれだけ貢献できるか、地域還元できるかというのも経営者としては大事なことですからね。

−本メールマガジンの登録読者は約1万人いますが、若手経営者も多く、またこれから開業を考えている方もいらっしゃいます。こうした方々に対してメッセージあるいはエールをお願いします。

 これから起業されるという方は、自分が信じたことであれば、1回や2回行っても会ってくれない、5回、10回行ってやっと名刺交換しかできない。その程度のことで挫折しているようでは、商売なんてできない。
 運がある人間、運がない人間とよく言われますけれど、それは後からわかることで、ある意味結果論にしかすぎないわけです。大事なのは努力するかどうかです。努力しなければどれだけ運があってもなにもついてこない。逆に運が悪くても努力すれば何とかなる。そんなものですよ。
 企業家精神というのは基本的にはネバーギブアップで、絶対に自分がいけると思ったら、とことんくらいついて、とことん勉強して、とことん自分の技術をあげること。それでも自分だけでは限界がありますから、良きブレーンを見つけること。そして一番大事なことは夢が正夢になるように、しっかり描き、ストーリー化するということですね。

−最後にこれからの地域のあり方、活性化についてご意見、あるいは商工会に対する期待、要望等がありましたらお願いします。

ただ救うのではなく自らの奮起を促す支援

 地域の人が地域の良さを知らない。だからもっとPRすることですね。みなさん往々にして外に向けてのPRはしていますが、地域内へのPRが不足しているように感じます。
 商工会については地域の小売店の活性化ですね。今、地方の小売店というのは大型店がどんどん進出して非常に苦戦しております。特に香川県の場合は、香川県で量販店として成功すれば、全国どこでも成功するといわるほどの激戦地です。売り場は広いし安いし、場合によっては24時間営業のところもあります。
 普通の小売店が立ち向かおうとしてもちょっとやそっとではなかなか勝てません。おまけにコンビニなども増えてきている。この地で生まれこの地で商業を守ってきた人たちが本当に苦戦している。しかし苦戦している人をどうするのか、ただ救うということではだめなんです。奮起を促すやり方をしなければならない。ただ甘えるのではなく自分たちで何かやるという考えが大切で、商工会はそれをお手伝いするということです。商工会にはそういった考えを持ってもらいたいと思います。
 商店も、ただ値段で対抗するというよりも、サービスですね。例えば昔は、酒屋などを中心に配達してくれたものです。ここに何らかのヒントがあるのではないでしょうか。
 商店街にもいろいろな問題がありますが、中でも問題なのは現代のモータリゼーション社会の中で、自分のエリアだけを守ろうとする姿勢ですね。駐車場もいくら以上買い物をしないと料金を取られる、しかし量販店は違いますよ。買い物するしないにかかわらず駐車場は無料です。そうした差がだんだん出てきていように感じます。
 私は地域活性化委員会の会長をしていますが、以前にもアーケードをつくる時にきちっと管理するから補助してくれと、そしてそれが傷んできたら危ないから今度は撤去してくれというような話があって、今度はカラー舗装をしてくれと。
 さすがにこれは金が惜しいとかそういう問題以前に、ものの考え方としておかしいだろうと思いましたので待ったをかけさせてもらいました。
 この商店街の人たちは、悪気はないとは思うけれどちょっと甘いんじゃないかと思います。これではなかなか商店街の活性化は難しい。
 商工会ももちろん限度はあると思いますが、そうした点も含め、商店街の自立を促すような形で支援をしてもらえればと思います。商店街がなくなると困るのは最後はやはり地域の人達ですからね。

−お忙しい中、ありがとうございました。

(平成21年3月23日インタビュー収録:文責コンパス通信編集部)