Vol.23 2009.3.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

「伝統を守り続けること、そして伝統の上に新しい価値、形をつけくわえ未来につなげていくこと」/後編

株式会社丸克製陶所 専務取締役 小西敏夫

 築き上げてきた伝統とブランドが色あせずに続いていくためには、常に新しく生まれ変わる必要がある。伝統の信楽焼に日本生まれの技術「光触媒」を組み合わせ、新しい伝統の扉を開け放つ若手経営者からのプライスレスメッセージ。後篇では今後の課題や伝統、ブランドについてなど幅広くお伺いしました。

・・・前篇では信楽焼と光触媒を組み合わせた画期的な空気清浄機を開発したというところまで掲載しましたが一方で課題もあるようです。 (詳しくは全国連HP上のバックナンバーを御覧下さい。
http://mag.shokokai.or.jp/htmlmail/p_msg/200902.htm) ・・・

商品力には自信、課題は販路開拓

―この空気清浄機は、年間でどのくらい出るのですか。販売の現状について教えてください。

 年間で1000台弱、今までの累計で約2000台売れています。今だに返品はありませんし、ペットの臭いやお年寄りの加齢臭が取れない、置物として部屋にマッチしないとかいったクレームの電話も1本もありません。
 開発した当時はネットで爆発的に売れるだろうと思っていたんです。ところが結論から言うとネットでは売れなかった。これは、もう一つ実感として空気清浄機と信楽焼というのが結びつかないのかもしれません。
 今おもに売っていただいているのは呉服屋さんです。呉服も売れなくて苦戦していますし、信楽焼と呉服、共通して和のイメージがありますからね。あとはいろいろな代理店さんを通じての販売ということになります。販売についてはまたまだ弱いというのが現状です。

−まだまた、PR不足だということですね。

 確かにもっと大々的に例えばテレビでCMをうったりしたら、もっと認知度は上がると思うのですが、PRというのはどうしてもお金がかかりますからね。
 実は去年の11月頃、朝日放送の代理店から電話があって「御社の空気清浄機をみたけど、CMを打ちませんか、いまだったら格安で枠を取りますから」という話がありました。そこで価格を聞いてみると15秒で500万円だと、そんなにかける余裕はありませんとお断りしました。今は主に展示会や見本市に出向いていって、その場でたばこの煙を除去する実験をおさめたものを見せて代理店さんを募るといったことをしています。
 これを読んで代理店としてご興味を持った方はぜひご連絡いただきたいですね(笑)。ちなみに一番安いもので38000円、高いものだと100000円ほどのものもあります。もちろん当然ながら数が出れば価格は下げていくことは可能です。
 商品的には自信を持っていますので、後はやはり販路開拓ということになりますね。これが一番の課題です。

−応用できる分野が広いようですが、今後そうしたことをにらんだ商品開発はお考えですか。

 そうしたいのは、やまやまなのですが、現実的には開発に相当費用をつぎ込んでいますので、まずはその回収ということですね。構想として持っているものはあるのですが、それが終わらないとなかなか次の手が打てないという状況です。
 医療用などの需要もあると思うのですが、実際にどこに売ろうかというところで止まってしまう。どこかに紹介してもらうというのはなかなか難しいんですね。うちでは今呉服屋さんに売っていただいているという話をしましたが、これもたまたまうちの社員と関係者が知り合いだったから、売っていただいているということなんです。
 できれは、商工会などが紹介してくれると非常にありがたいですね。私もあらゆる機会をとらえて、「ほっこりにっこり」を少しでも売るために、いろいろな所に出向いPRをさせていただいていますが、2/25〜3/2まで東京日本橋の高島屋で開かれる大近江展にも出品しますし、4月末にもビックサイトで展示会がありますのでよろしければ見に来てください(笑)。

信楽古陶館

伝統を守り、新しい価値を生み出す

−伝統的な信楽焼の事業、あるいはそれ以外の事業はいかがですか。

 事業としては伝統的な信楽焼と空気清浄機、いまのところはこの2本立てです。ただし冒頭でも言いましたが、信楽焼の売り上げが減っていて、その減った分を光触媒の事業が補っているという形です。そうした現状からやっぱり同じことをやっていたのでは厳しいということを強く感じています。

−新しい分野を開拓する一方で信楽焼の伝統を守る必要もありますね。

 もちろんです。伝統的なものというのは意識してきちんと継承していかなければなりません。誰かがやらなければ、間違いなくいずれは廃れていってしまうと思います。実際にはこれからの若い者が中心となってやるべきなんでしょうね。工業組合の青年部などが前面に出て積極的にやってほしいと思いますが、ただ具体的に何をやっていくのかということになるとと意外と難しい面があると思います。
 今は100円ショップに行けば生活できるくらいの食器は揃ってしまう時代ですからね。たた、一方で若い方に中にもこだわりを持ってコーヒーを飲むマイカップは信楽焼でという方もいらっしゃるわけです。
 信楽焼というのは今、大変厳しい現状にあるのは確かですが、一方で確立されたブランドでもあるわけですね。うちの光触媒を利用した空気清浄機も、信楽焼というブランドとジョイントしていることで売れているという面があるわけです。もし仮にまったくブランド力のない焼き物に光触媒を付けて空気清浄機を作ったとしても、興味を示してくれるお客さんの数は、間違いなく大幅に少なくなるだろうと思います。お客さんの受け取り方が全然違う。それがブランドの力なんですね。
 信楽焼というのはすでに確立されたブランドだからこそ、それを活かした陶器づくりを進めていく必要があるわけですね。その上で、必要に合わせて新しいものを加えていく。
 今、ブランドを守ることと、ブランドからあたらしい価値、形を生み出していくこと、2つのことが求められていると思います。

ブランド侵害に求められる国家レベルの対応

−ブランドならではの宿命といいますか、模倣、あるいは安価な商品の流入など海外からの影響についてはいかがですか。

 海外からは、主に中国ですが、深刻な影響を受けています。
 中には、有害物質が溶け出してくるという中国製の土鍋が問題になって信楽もそうですし、四日市の鍋づくりなどがその影響で忙しくなるというようなプラスの影響もありますが、全般的には厳しい。輸入物が幅を利かしてきていますね。
 模倣はすごいですね。10年ほど前からうちで意匠登録を取って信楽焼の家庭用郵便受け、ポストを作っているのですが、今から4年ほど前、全くそれと同じものが載っているカタログを見つけました。しかも値段が半分なんです。よく見ると中国製と書いてある。どうもバイヤーがうちのポストを買って中国に持って行って、そのポストに石膏を流して型を取って作っているようなんです。商品自体に石膏を流して型を取っていますから、ちょっと小さくなっていますが、他は全く一緒なんです。
 他にもありますよ。3年ほど前にも主力で焼いていた観葉植物を植える植木鉢、これは信楽の問屋さんを通して、胡蝶蘭などをつくっている生産農家に売っていただいていたんですが、生産農家から中国から直接買うと言ってきました。聞いてみると値段がぜんぜんちがうんですね。うちが問屋さんに卸している値より安い。これでは勝負にならない。
 こういったことに対処していくのは大変難しい。うちみたいな一企業や、あるいは信楽という一産地だけ、この業界だけで対応するのはもう無理です。国家レベルで対応してもらわないとどうにもならない。そうした中で、我々にできることは良いもの、使い勝手のいいもの、見栄えのいいものに特化してブランドとしての価値を発信し続けるしかないのではないかと考えています。

−実際の中国製品の品質はどの程度のものなのか。

 五寸ほどの小さな狸の焼き物なんですが、うちの窯でしか焼いてないし、うちの売店だけしか売ってないものと全く同じものが輸入業者のカタログに載っているんですよ。でも実際に見ると作りは粗雑ですね。他にも焼いている温度が違うせいだと思いますが、中国製の方が割れやすいという話は聞きます。
 形は真似できても、本来持っているもの、中身、質については簡単に真似のできるものではないと思います。このあたりが伝統なんでしょうね。

−社是や会社としての理念、あるいはビジネス全般について普段からこころがけていることなどがありましたらご紹介ください。

「三方良し」、当たり前のことをきちんとやる

 近江商人の教え、「三方良し」ですね。「売り手良し、買い手良し、世間良し」 これが基本中の基本ですね。売れたうちはもちろんうれしいし、買っていただいたお客様にも喜んでいただける。さらに、それを使っていただくことで世間全体も良くなっていく。これが一番大事なことだと考えています。
 当たり前といえば当たり前のことですが、商売というのは当たり前のことをきちんとどれだけやれるかということなんです。
 この「三方良し」のという点からみると、うちの空気清浄機は本当に「三方良し」だと思いますよ(笑)。

−仕事以外の趣味等について、例えばオフなどはどのように過ごされていますか。

 土日もお店の方に出ていますので、基本的にはあまり休みが取れないのですが、たまに休みが取れて家でのんびりしているときには結構マンガの本を読むことが多いですね。この頃はブックオフとか安く買えるところがあります。子供のころや学生のころになかなかできなかったことへの反動かもしれませんが(笑)、そうしたところで大人買い、いわゆるまとめ買いを楽しんでいます。
 ただまとめて買ってしまうと、一度読み始めると最後まで読まないと気が済まないものですから(笑)、4時間5時間読み続けることもあるんです。やはり時間が取れないので読めるときについつい読みすぎてしまうということもあるようです。他には映画も好きなのですが、やはり映画館に行く時間が取れないものですから。なんとか自宅でDVDを見る時間を作りたいと考えています。

−「コンパス通信」の登録読者は約1万人いますが、若手経営者も多く、これ から新しい分野にチャレンジをされていこうとしている経営者、さらにはこれから開業を考えている方もいらっしゃいます。こうした方々に対してメッセージあるいはエールをお願いします。

 私自身、差し出がましい話を申し上げられるほど、そんなに経験もありませんし、偉くはありません。ただ私の経験から感じていることは、信念を持ってやればなんとかなるのかなということです。
 3年間の商品開発の間、試行錯誤、苦労の連続で成果もなかなか上がらず、本当に何度も良かったのか悪かったのか真剣に悩みましたが、それでもあきらめずにやり続けていくことでいいことも出てきた、今につながってきているわけです。
 時間がかかって、多少回り道になっても芯がぶれなければいいんです。むしろ逆にこういう時代だからこそ、いろいろ悩み試行錯誤しながら回り道することも必要なんじやないでしょうか。

一丸となって新たな地域おこしに取り組む

−地域経済の担い手としてのこれからの商工会に対する期待、要望等がありましたらお願いします。

 商工会はうちもいつも利用させていただいていますが、大変助かっています。ただしこういう厳しい時代でもありますので、引き続きサービスの充実をお願いしたいですね。
 特に最近の経済情勢を考えると、信楽もそうですが地場産業を多く抱えているところは資金ニーズが高まりますので、金融関連のサービスの充実がますます必要になってくると思います。

−今、地域のあり方がいろいろと問われていますが、どのようにお考えですか。

 地域というと私の場合、どうしても信楽焼をどうするかということを考えてしまうのですが、個人や一企業がやれることはもう限界に来ています。
 これからは信楽の陶業界が一つになってイベントを行うなどして、信楽の陶器を使ったさらなる町おこしをやっていかなければならないのではないかと考えています。
 来年の話なのですが、いまから17年前に行われた世界陶芸祭を開催しようという計画があります。一度で終わらずに、その後も3年に一回継続して開催するということですが、なんとか成功してもらいたい。信楽全体で取り組めることが増えるというのは大歓迎です。
 信楽では観光客はずっと減ってきていましたが、去年、新名神が開通して、そのため前年よりは観光客は増えているようです。しかし、実際には2月に開通してから、5月一杯までの3ヶ月間は開通記念出高速料金が半額ということで、この時期のお客さんが多かったのです。ところが料金の割引期間が終わり、燃料が高騰した7月からはパタリとお客さんが来なくなってしまった。問題はせっかく増えた観光客をどうつないでいくかということですね。
 今回の国の2次補正予算案の中で、土日、祝日限定ですがETC搭載車については、どこまでいっても料金が1000円というのがありますね。そういうことをしていただけると地方の観光地は盛り返せるんじゃないかと大いに期待しているところです。
 ただ、何をやるにせよ一番大事なのは、皆が一丸となって取り組む姿勢、努力なんだと思います。

−本日はお忙しいところをありがとうございました。

信楽駅の狸



(平成21年1月16日インタビュー収録:文責コンパス通信編集部)