Vol.17 2008.09.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

株式会社 セルフウィング 代表取締役社長 平井 由紀子

「時をかけ、大事に大切に人とつながる強さを教えていく」/後編

地域の子供たちに地域の人たちが教える。
その積み重ねが、いずれ必ず地域に何かを生み出す。
ひたむきに前向きに子供たちの「起業家教育」を通じて地域の活性化に取り組む女性経営者からのプライスレスメッセージ。いよいよ後編です。

グループで入り口(起業家教育)から出口(創業支援)まで携わる

―あらためて今後のことについて教えてください。

 根気よく必要性を訴え続けていくことと、そして、これまではワンパッケージ、100万、150万かかっていたものをもっと安くしていくということですね。どのくらい、安くなるかについてはビデオなどの映像をうまく利用するなどやり方を工夫することで、ある程度コストを下げられますが、やはり数をこなせばそれだけ安くできます。そのためにはもっと広め、できればトレンドにできればいいですね。ただし広めていくための奇策はありませんから、地道にやっていくしかないと感じています。
 教育することを入り口ととらえた場合、同時に出口をきちんと作っていくということも大事なことだと考えています。具体的には創業したり、仕事をつくりだしたり、跡継ぎを養成するということですね。グループ会社のフューチャーラボでそういったところに力を入れています。
 新たな取り組みとしては企業に入った後に、人がやめないような仕組み、いわゆるワークライフバランスにも積極的に取り組みたいと考えています。ワークライフバランスは単なる女性活用、子育て支援とらえられがちですが、それだけにとどまるものではありません。中小企業にとっては人を確保するためにこれからやらざるを得ないものだと考えています。このワークライフバランスは大企業では導入が進んでいますが、中小企業ではまだほとんど導入されていません。ただし、こういったものは、むしろ小さい企業のほうが制度として根付きやすいのではないかというのが私の持論です。
 いずれにせよ、私たちのもともとの目的は地域にあった仕事を作ろうということですから、地域に根ざした商工会さんなどと一緒にやっていけたらいいなと考えています。今まではいわば導入段階で、今後は、だいぶ事例もたまってきておりますし、皆さんが地元でやっていただけるような拠点を作る方向に進んでいければいいと考えています。

―フューチャーラボについて話が出ましたが、もう少し詳しくお話下さい。

 フューチャーラボは2005年に設立した、インキュベーションの会社で、事業全体の出口の部分、つまりキャリア支援、後継者育成、創業支援を専門に扱っています。他にも事業再生や教育コンテンツを入れることにより人を集めて中心市街地を再生させるだとか、新規事業を作るための研修なども扱っています。大変ですけれど結果が見えるから面白いですよ。一方、教育事業のほうは結果が見えるまで時間がかかりますけれど、それまで大事に大切に育てていくといった感じです。

−フューチャーラボさんでは農商工連携についても取り組んだと聞いていますが。

 当初は沖縄で農商工連携的なことも行う予定だったのですが、私の見込みが甘くてうまくいきませんでした。近くに最終消費地を確保できなかったということがうまくいかなかった最大の原因だと考えています。これからのことは未定ですが、あらためて取り組むとしたら消費地をきちんと押さえてからですからね。消費地というのはある程度確定していると思っていても、急に先方の都合でだめになることがありますし、ここがこけたら全部に影響が大きいですから(笑)。一度失敗してそのあたりをよく学びました。
 ただ、農商工連携をやるとしても農協など既存の権利者とバッティングしないように工夫する必要があると思います。例えば、アグリバイオなどをうまく使って、ビルの中で栽培できる野菜などができれば彼らとはまったくバッティングしないで、新しい市場を作り出すことができます。しかもこれでしたら、重労働にはならずお年寄りなども気軽に働けますから、高年齢者対策にもなります。

選択する力、人とつながる力を身につけさせる

−ここから直接事業に関係ないことも少しお伺いしたいと思います。地域に根付いた教育が必要なのはわかったのですが、せっかく教育しても都会にいってしまうということはありませんか?

 都会は地域に対立するものではなく、見方を変えれば大事な消費地でもあります。問題なのは都会に出てしまうということではなく地元に職業やその他の選択の余地がないということだと思います。ですから地域に仕事をつくれば、地域に残るのか、都会に出て行くのか選択できるようになるわけです。
 そうなると子供たち自身が選択する力を持つことが大事ですね。例えば東京にとりあえず3年いて、こうしてこうなったら帰ろうとか、そういった自分の一生を設計する力、選択する力が、私たちのプログラムを通じて身につけばよいと考えています。

−ここ何年か社会問題としてニートについてよく取り上げられます。教育問題としての側面もあると思いますが、いかがですか?

 ニートやフリーターの問題は数年ほど前に現れてきたと思いますが、フリーターは曲がりなりにも働いているのに対してニートは社会との接触を断つものですから問題は大きいと思います。今では小学校でキャリア教育(子ども達が、主体的に自己の進路を選択・決定できる能力、社会人・職業人として自立していくことができるようにする教育)が必要だという意見も出てきていますが、いずれにせよ難しい問題ですね。子供のころから働く喜びを教えるということもあるのでしょうが、一人ではなく、チームで何かをやりとげるということをきちんと教えることが必要だと思います。特に子供のうちにリアルに体験させることが重要だと思います。
 子供たちを見ているとよく喧嘩をしてます。販売責任者と社長が、何でこんな安く売ったのだと価格を巡って言い争ったりしているのです。殴りあいまでしたらさすがに、子供に向かって、もう子供じゃないんだから(笑)話し合ったらといってとめたりしますけど、後は放っておきます。しかしこういうことを通じて、うまくいくようになるのですね。どんどん変わっていきますから見ていて面白いですよ。一人の力では何もできないから、つながるというのは絶対ですが、つながるにはそれぞれの個の力もしっかりしなければつながれない。一人で生きているように見える人間、例えば優れた技術を持っている画家にしても、絵を売ってくれる画商、自分の絵を認めてくれるパトロンがいなければ食べていけない。必ず社会につながっているわけですね。

厚生労働省「ニート(若年無業者)の増加(単位:万人)
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
総数 42 46 48 44 49 64 64 64 64 62

年齢別・推定人口(単位:千人)
年/年齢 15〜19歳 20〜24歳 25〜29歳 30〜34歳
1992 176.8 1.8% 215.6 2.2% 158.8 1.9% 117.2 1.5%
1997 149.2 1.8% 228.7 2.4% 211.2 2.2% 127.3 1.5%
2002 114.5 1.6% 240.9 3.0% 264.0 2.8% 227.9 2.4%

−社是や会社としての理念、あるいはビジネス全般について普段からこころがけていることなどがありましたらご紹介ください。

 老子の言葉で「人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、人に釣りを教えれば一生食べていける」というのがあります。教育こそが根本にあって大事なものだということを良く表していると思います。私は教育を受けられなかったゆえの悲劇というものをいろいろな国で見てきましたが、日本でも受けられる教育に確実に差が出てきていると思います。十分な教育を受けられないというのは実は2パターンあって、一つは経済的な理由などで物理的に無理な場合、それともう一つは親が教育に関心をもたなくて十分な教育を受けられない場合ですね。今、日本で問題になっているのは後者の方だと思います。

ガンガン打たれたクイは簡単に抜かれない

−女性の起業、創業についてご意見をお聞かせ下さい。

 当然社会全体の問題でもありますが、起業するほうも覚悟を決めて、腹をくくらなければいけないのではと思います。これは男女問わずにです。嫌な思いというのは男女関係なく誰でもしますからね。
 創業をしようという人は、もちろん綿密に準備しなければいけないのですが、鼻血を出してもやり抜くとかそんなに気負っていたらもたないと思います。真剣でなければもちろんだめですが、そんなに気負わなくても、これだけは負けない、これだけは絶対にやり遂げたいという想いがあれば、やり抜けると思います。これは何にでも言えることだと思います。何のためかというのが大事で、私自身、それがわからなくなったら会社をやめます。
 女性ということでは、私も昔は女のくせにとかとよく陰口をたたかれましたが、最近は逆に「いいなぁ、女は。銀行も投資家も甘いだろうし、得だよな」という同世代の男性からの声を聞きます。さすがにこれには、これまで散々みたいな感じでムッとしますね(笑)。私もお茶汲みもやりましたし(楽しんでしてましたが)、同期の男性と同じレベルの教育の機会も与えられませんでしたからね。
 子育てについても、私たちの時代にはあまり選択の余地がなかったと思います。仕事を取るか、子供を取るかの選択などというケースもあり、総合職の女性で子供が生みたくても生むことができないといったことも多かった。
 これからの世代はどちらかを捨てなければならないみたいな選択はしないで済むような社会にしたいですね。子供を職場につれていって、泣けば外に出せばいいのです(笑)。何時に来てもいいし、やることだけ、やってくれれば何の問題もないと思います。
 理不尽な男女差別を言い出したらきりがありませんが、次の世代には、そういったことは味合わせたくありませんし、仮にそういったことを味わったにしても「大丈夫、打たれ強いクイはぬかれないから(笑)ガンガン打たれなさいと。打たれすぎたらもう簡単に抜かれないからと」と言いたいですね。とりあえず、「みんな頑張ろう(笑)」ということですね。

創業計画者・新規創業者比率(%)
1 ニージーランド 17.6
2 アメリカ 12.4
3 オーストラリア 10.9
4 アイスランド 10.7
5 アイルランド 9.7
20 スウェーデン 4.0
21 ベルギー 3.9
22 日本 2.2
23 ハンガリー 1.9

※18〜64歳を対象
2007年版「中小企業白書」(中小企業庁)

−差し支えなければ趣味についてお聞かせ下さい

 仕事以外ということになりますと、よく息抜きで食事に行ったり、お酒を飲みに行ったりしますね。かなり楽しいですよ。一方でお休みはしっかり取ります。ほとんどどこにも行かずに家に閉じこもって、好きな本を読んだりして過ごします。もちろん仕事のことを、土日も含めて24時間考えても苦にはならならないし、どうせ考えてしまうのですけれども、物理的に休むということも必要だと考えています。
 一緒に食事をする人は、本当に千差万別です。渋谷の若い方たちもいればお年よりもいます。それぞれのつきあいが、すべて仕事や人生につながっています。とてもありがたいことですね。
 皆さんが何回もあってくださるのは、何でもいいからその人が欲しい情報を持っていくように心がけていることが大きいと思います。それでもいただくほうがはるかに多いですけれど(笑)。人とのつながりはビジネスにつながりますし、人のつながりがあるからこそ今の私があります。大赤字になったときも、赤字の決算書を持って、「すいません、一口100万円お願いします」と恥を忍んでお願いしてまわったこともあります。「おまえよくこんな赤字の決算書を持ってきたな」と叱られましたけど助けていただきました。
 一人でいる時間も長いけど、人に会うのも大好きですね。うまく自分の中でバランスが取れていると思います。

自分たちの手で教え、新しいものを作り出していく

−読者へのエール、メッセージがありましたらお願いします

 地域を回るととにかく人がいないという話ばかりです。そうであれば、仕事を生み出し、人を集めるために地域の人たちが自分たちの手で地域に教育の場を作りましょうと。縦割りじゃなくてちゃんと学校と産業界がつながらないとミスマッチが出てくるわけで、逆にそういったことができるのが、商工会あるいは商工会議所ということになると思います。要するに人と仕事づくりをやりましょうということですね。
 子供たちにとっては、商売のプロから直接、時には「商売はそんなもんじゃない」なんて怒られながら、学ぶことが大きいのです。彼らはそんなこと聞いたことがないから、新鮮でものすごく感動するわけです。
 こうしたことを通じて、地域に仕事を作り自分たちの雇用は自分たちで守ろうということです。たとえ世の中から仕事の90%がなくなっても、生きていける世界、わたしが目指すのはそんな社会です。なくなったらまたつくればいいのです。一緒に頑張りましょう(笑)。

−商工会、地域の活性化についてのご意見をお聞かせ下さい

 何か新しいものを考えたほうがいいと思います。やっぱり収入をあげられる商工会独自のビジネスを起こしたほうがいいですね。一度にたくさんでなくても、仮に1件200円程度だとしても、例えば会員企業は100万近くあるわけですからね。まだ、そうしたことができていないとすれば、楽しいですね(笑)。これからじゃないですか。もうできてしまっているものなんか全然興味ないですよ。面白くないですね。例えば青年部の方など、結束が固くて、子供たちの先生としてすばらしい方が多いですから、そういう方たちの力を借りる。もし彼らの力を生かしきれていないとしたらもったいないですよ。
 私どもについて言えば、地域には本当にお世話になりましたし、地域のおかげでこれまで何とかやってこられたわけですから、例えば商工会さんにご協力いただける、一緒に事業を行うことができるとしたら、大変ありがたいことだと考えています。
 それと中小企業の人材確保のためには人事戦略が必要です。そのためのワークライフバランスのセミナーなども商工会さんが積極的に主催していただければ影響は大きいと思います。
 その他にも、例えば地域に大型店が進出すると、これはある意味では地元にとっては問題なのかもしれませんが、そこにレジを打つ仕事が生まれるわけです。ところが休みの日や夜遅くまでレジを打つということであればなかなかできる人はいないですよ。その時に商工会が、子供を預かるような施設を作れば、女性も安心して働けるわけですね。 そうしたことにも取り組んでいただければと思います。

−参考にさせていただきます。本日はお忙しいところを有難うございました。

(平成20年7月22日インタビュー収録:文責コンパス通信編集部)