Vol.12 2008.04.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

株式会社 八幡ねじ  代表取締役社長 鈴木 建吾

「執着しない軽やかな知的好奇心が、まだ見ぬ空へ翔ぶ」/前編


大手コンピュータ会社から父親の後を継いで

―まず御社と事業の内容について簡単にご紹介いただけますか。

 うちが扱っているのは、ねじですが、ねじというのは我々の生活の中でなくてはならないものとして様々なところで使われています。実に奥が深いものだと思います。一般的なねじの種類は約30万種、そのうちうちに在庫しているのは10万種、特殊なねじを含めるその種類は100万、あるいは200万、文字通り数限りなく存在します。それだけの種類がありますのでそれを自分のところで全部つくろうなんていうのは土台無理な話なのです。必然的にベンダー形式になるわけです。
 うちももともとは、ねじを切削してつくっているメーカーだったわけですが、もちろん作れる範囲は知れていますし、お客さんからあれはないか、これはないかと言われて、どんどん在庫していくうちにベンダー中心になってしまったということですね。様々な得意分野を持つメーカーさんがあって、そこから我々みたいなベンダーが集めてきて、在庫管理・調整しながら、ジャスト・イン・タイム必要な時に必要なだけ、ユーザーさんに供給していくということです。最近では顧客のニーズも変化しておりまして、毎年約2000アイテムの新しい商品を投入しています。

店頭に並べられた
数多くのねじ

−御社はこの2月にITを経営に生かしている中小企業を表彰する 第一回「中小企業IT経営力大賞」で大賞を受賞されましたが、 どのようにITを進めているのかその特徴を教えていただけますか。

 大きくて複雑なシステムですので、それを全てくわしくご説明するのは難しいと思います。特徴的なことだけをかいつまんで申し上げます。
 まず、ITに関しては自分のところでずっとやっています。現実問題としてうちのなかでやるしかなかったという事情もありましたし、おそらく外部に任せたら失敗していたと思います。もちろん外部に頼めばすばらしいものを作ってくれるが、それでは社員がそれを共有して経営にプラスになるかというとそうでもないわけです。
 現在、YACSと名付けた全社統合システムを稼動させていますが、この中には受注システムと出荷システムが含まれています。メーカーベンダーですので、このうちの出荷システムには非常に特徴的なものがあるとかと思います。その代表的なものについては後ほど話をさせていただきます。

―ありがとうございます。では改めて少し内容を絞って時系列的にお伺いします。鈴木社長は、大学を卒業して大手のコンピュータメーカーに就職されたと聞きましたが

 はい、昭和44年に大学を卒業して富士通に就職しました。当時からこれからはコンピュータの時代になるという考えはありましたね。そこに2年間お世話になって、昭和46年に八幡ねじに入社しました。当時は父である先代が代表者でしたが少し体を壊していたこともありまして、就職した会社を2年で辞めて、父親が経営している会社に移ったわけですが、特に未練はありませんでしたね。基本的には未練を持たない、物事に執着しない性格ですので(笑)。
 ただ、入ってすぐにコンピュータ化をするという状況ではなかったですね。コンピュータ化するには億単位の費用がかかりましたから、まだ中小企業が入れられる時代じゃなかったですし、うちも年商を考えたら話にならなかった。
 その頃、同業で無理してコンピュータ化をしたところは全て失敗していますが失敗した理由は明らかです。その当時は入力法もパンチカード程度しかなくて、とても効果的な入力方法とはいえなかったし、出力も紙でしかできなかった。時間もコストもかかるし余計な作業も出てくるから全然意味がなくて、コンピュータ化といっても言葉はかっこよかったけれども、結局は無駄なことをやっていたわけです。コストが高い割にはできることが極端に少なかったということですね。
 コンピュ−タ化以外にもやることはたくさんありました。とにかく私の目から見ると無駄なことがありましたから、最初のうちはそうした無駄をなくすためのいろいろな業務改善をすることに追われていましたね。やることがたくさんありまして楽しかったですよ。なにせ富士通と比べるとうちの会社は時間が止まっているように感じたくらいですからね(笑)。幹部を集めて毎月一回は改善会議をやっていました。うまくやれたかどうか判断するのは難しいですが、少なくてもそのとき出てきた問題点は全て解決していましたね。

コンピュータ化により職人技の意味が消えた

―実際のコンピュータ化は何時頃から始められたのですか。

 昭和54年に第1次コンピュータ化を行いました。八幡ねじが大きく変わったのはやはりコンピュータ化を進めてからですね。それまでの小さな改善の積み重ねを抜本的に変えていったのがコンピュータ化だったわけですが、正直言って第1次のコンピュータ化は我々自身がよく知らないこともあってあまりうまくいかなかった。実際にうまくいくようになったのは昭和58年の第2次コンピュータ化からです。
 第1次コンピュータ化の時には普通の社員にはコンピュータを触らせないようにしました。よく知らない人間にさわらせるとおかしくなるから一部の人間だけに参加してもらい、コンピュータがどんなものかというのを体験してもらったのです。
 それに対して、第2次コンピュータ化の時には、最初に社員全員を集めて、「これからは革命が起きる。コンピュータの時代になる。みんな意識を変えてもらわないと困る、コンピュータも扱えないと駄目だよ」という話をして、全員に参加してもらいました。
 この第2次コンピュータ化から、社員の仕事の中にコンピュータのシステムが組み込まれたわけですが、その結果として、社員がコンピュータによって動かされる、コンピュータがタクトタイム(工程作業時間)を作るという風に仕事の流れが変わってきたわけです。
 そうなると大きな変化が出てくる。今までよりもスピードアップされたものがコンピュータでどんどん出てくるわけですから、ある程度はコントロールできたとしても、完全に自分のペースで仕事をするということはできなくなります。どんどん出てくるスピードに対処しないといけないですから無駄がなくなり効率が上がってくるというわけです。その結果、100%満足できるものではありませんでしたが、大幅なスピードアップを達成できました。
 商品も番号を振って効率よく取れるように並べなおしました。今までは「商品を探すのが仕事だ」みたいな風潮があって、倉庫の何処に何があるのかが分かっている人間が仕事のできる人間だった。ある種の職人技みたいなものがあったわけです。それを今度はコンピュータの出すロケーション番号だけをみて出荷すればいいという形に変えたわけです。最初のうちはロケーション番号を見ないで、商品名だけを見て作業をしてそれで間違えるなんていうこともありましたが、そのやり方に慣れてくると結果として新人の方が、仕事をうまくやれるようになった。コンピュータ化の結果として素直にまじめにやる人のほうが、知識、経験のある人より仕事が速くなってしまい、これまでの職人技の意味がなくなってしまったのです。
 当然ながらしょうがないこととはいえ、いろいろと軋轢もありました。しかしながら、コンピュータでやると決めた以上、ある意味ではどうしょうもないことですから、そうした熟練者たちには、もう少し高度な管理などの仕事をやってもらうということにしました。

出荷のあり方を変えた革命的な出荷システム

―そしてさらにシステムとして次の段階に進化をとげるわけですね。

 さらに革命的だったのは昭和62年のフローシステムの開発です。これは、ベルトコンベアーとコンピュータが一体化している出荷システムで、うちのお客様のホームセンター向けの出荷対応として作ったシステムです。
 第2次コンピュータ化では、ローケション番号をふって置き場順に商品をとることにより効率を上げたわけですが、作業としては注文ごとに対応して、一回一回とりにいっていたわけです。これをもっとスピードアップするために複数の注文を一回にまとめられないかと考えたわけです。具体的にはベルトコンベアーが当時、24分岐ありましたので、同時に24社からの注文をこなすことが可能だったわけですが、この24社分からの注文をひとつにまとめて、複数の会社から同じ商品の注文があれば加算して一度で持ってきてしまえばいいのではないかと考えたわけです。
 これによりさらに出荷のスピードがあがり、人が少なくてすむようになってコストが下がりました。中でも大きかったのが、出荷ミスがゼロになったということですね。人間がやればどうしてもミスが出ます。導入を決めた背景として、当時は週末の作業ピーク時になると人手を動員して24時間体制でやって、それでも追いつかなかったし、ぎりぎりの体制でやると出荷ミスも増えてクレームも来たわけです。それがまったくなくなった。やっぱりミスをなくすには、最後には機械を通さなければいけないということですね。同時に他の改善も進めていったので納品率も上がりまして、毎回のホームセンター業界の表彰では、必ずうちが表彰されるようになった。しまいには、納品率では必ず八幡にきまっているからもうやめようといわれるまでになりました(笑)。

―ホームセンター以外のお客様に対する出荷システムも別にあるのですか。

 はい、ホームセンター以外のお客様に出すのがセルシステムです。バラ出荷の場合には、フローシステムは機能しませんので、そういう細かい注文に応えていくためのものです。うちの商品には大きく分けてHI(ホームインプルーブメント・ホームセンター向け商品)とFN(業務・工業用ねじ)がありますが、セルシステムはバラ出荷が多いFN対応です。
 もともと、うちみたいな卸はバラ出荷はやらないのですが、うちはお客さんにあわせましょうよということで昔からやっていましたし、というか気が弱いから断りきれなかったんですね(笑)。しかし、最近はうちがやっているから他のところもバラをやるようになりましたね。
 セルシステムをつくったのは平成17年で、ごく最近のことなのですが、実はセルシステムは運用が少し複雑なのです。フローシステムと比較すると、フローシステムは、ある意味コンピュータの指示の通り、無条件でやらざるを得ないものだったわけですが、それに対してセルシステムというのは人と機械が対応するシステムになっていまして、マンマシーンインターフェイス、オペーレーションの仕方にある程度の熟練が求められるシステムなのです。

商品の仕分け作業

人が動かすシステムであるということ

―非常に完成度の高いシステムですが、途中でいろいろとご苦労やトラブルなどもあったのでしょうね。

 2回ほど大混乱を起こしたことがありましたね(笑)。1回目は昭和58年の第2次コンピュータ化の時です。この時はコンピュータのキャパがたりなくて止まってしまった。取扱量が多くて能力オーバーだったのですね。これは私が直したのですよ(笑)。簡単に言うとハードウェアのロジックがわかっていたので、システムを組み直してディスクに対するアクセス回数を減らしたのです。メーカーと交渉してメーカーが持っているファイルアクセスの手法を開放してもらいました。「動かないけどどうしてくれる。相対編成ファイル(コンピュータにおけるファイル編成の形式の一つ)だったら動くはずだからファイルアクセスの方法を教えろ」と迫りましてね(笑)。
 普通はなかなかここまではわからないですね。僕は2年間しか富士通にいませんでしたが、その間にコンピュータの解説書を書いたこともありますから、ハードウェアもソフトウェアも一通りのことはわかっていたわけです。 この時は、何せ出荷指示書が出てこないから出荷そのものができない。もうコンピュータはやめようかという話まで出ました。それでも一晩かけてあくる日に原因がわかってそれこそ一気にパーッと直したら、あれはなんだったのかという話になりました。ソフトウェアの重要性を改めて認識できまして、いい勉強になりました。
 2回目はセルシステムをオープンした時にやっぱり運用面で混乱がありましたね。実は小さいものもふくめると何回も混乱しているのです。結局、運用の仕方が全てなのです。うちの場合は特に全員が関わりあう、大きなシステムにしましたから運用がうまくいかないと時間ばかりかかって大変なのです。ハードウェアだけですまない。人の考え方、動き方全部関係しますからね。だから、トレーニングルームまで作って出荷のトレーニングをしているのです。
 ここでトレーニングした後、現場の小集団、アメーバの中で段階的にチェックして一人前にしていくから、スムーズにシステムが動いているわけです。例えばうちのシステムをよそにそのまま持っていってもだめですよ。我々スタッフも一緒にいかないとうまく動かない。

―今、現場の小集団・アメーバというお話が出ましたが、これらのシステムの背後にある考え方にはどういったものがあるのでしょうか。

 ベースになる考え方にはVM(ビジュアルマネージメント・見える化)、YPS(ヤハタプロダクションシステム)、それと今出たアメーバ経営があります。まず、この場合のVMというのは、社員一人一人が働いているか、働いていないかが分かるようにするということです。例えばどのくらい経費がかかっているのかというように数字で把握できるということですね。当然、社員側からもわかりますから、公平感もでますし、効率もあがりますね。
 それから、YPSというのは有名なTPS(トヨタプロダクションシステム)をそのままうちに持ってきたものです。最後にアメーバ経営ですが、これはご存知のように組織を小集団に分けて運営管理していく経営手法で、組織が当然ありうる形、生き生きとした形で存在させようということですね。柔軟性を持たせて人が余っているところから、人を必要としているところに自由に人を回すことも簡単にできる。うちの場合は5人から10人くらいの単位で、VMと完全に一体化していますね。そして、アメーバの見える化をして、アメーバをどう合理化していくという手法がTPSです。
 この関係をまとめるとまずVM・見える化によってチェックする体制ができる。TPSでは実際の作業の合理化をはかり、問題点を把握する。そして実際の作業はアメーバが主体となり、単位を定めて行うということです。もちろんどれも相当な力を入れてやらないとうまく機能しないですね。

***  以下後編につづく  ***