Vol.06 2007.10.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

江差町歴まち商店街協同組合 理事長 室谷元男

「じっくりとあせらず、しみ込ませるように想いを込めて
・・・そして伝えていく」/前編


「辰悦丸の大回航」が開いた「歴史を生かすまちづくり」


―まず初めに江差について簡単に教えて下さい。

 もともと江差は沖合いにかもめ島という島があって天然の良港を持つ港町として栄えた町です。北前船が持ってきた文化、北前船との関わりは深く、江差に360余年続く姥神祭、これは北海道三大祭の一つですが、こうした歴史ある祭りなども調べてみるとこの北前船に行き着きます。江戸自時代には「入船三千、出船三千、江差の5月(の賑わい)は江戸にもない」というくらいに栄えたということですが、近年では北海道の経済の中心が札幌、函館に移ったこともあり衰退に歯止めがかからないという状況が続いていました。

−街づくりにはかなり以前から取り組んでいたということですが。

 昭和60年に江戸時代の伝説的な商人である高田屋嘉兵衛の持ち船だった北前船の辰悦丸が嘉兵衛のふるさとである兵庫県で復元され、翌年に「辰悦丸の大回航」ということで江差にやってきました。当時、再び北前船が江差にやってきたということで町をあげての大変な盛り上がりがありました。
 そうしたことが引き金になって北海道庁の肝いりで、「歴史を生かすまちづくりプロジェクト」というものが立ち上げられ「江差」と「小樽」と「函館」がモデル地区に選ばれました。
 平成4年に港に近い下町の商店街の中に任意組合として「歴まち商店街組合」が結成され(平成8年法人化)、その具体的なコンセプトとして「北前の息づく町、ぬくもりと技を」というスローガンが掲げられました。
 もともと辰悦丸が来た時にそれに併せて昔の建物を掃除したり、古いものを展示したりしたのですが、そういったことを一過性のものではなく自分たちの原風景として甦らせようと。その為に商店街として何かできないかと考えました。
 「辰悦丸の大回航」はもともとは民間の発想だったわけですが、最終的には官と民が一体となって辰悦丸を迎えることができた。官と民が一緒になった江差ではおそらく初めての大事業だったと思います。
 その下地を踏まえて、街路事業が始まった時に、別の地区の人や行政の人などもメンバーにした「NUTクラブ」というものを結成して、これにはそれぞれの町名の頭文字をあらわすのと同時に「洒落者」あるいは「古い殻を壊す」という意味があったんですが、そこで、これから歴史を活かす街づくりをどのように行うべきかを、ブレーンストーミングを行い徹底的に話し合いました。
 その時に一つの結論として出たのが、もちろん街路事業が5年先にできるのか10年先にできるのかまったく分からない状況だったわけですが、街路が新しくなってから何をするかではなくて、その前に今からできることは何なのかを考えようということで、その時のキャッチフレーズが「こんな町に僕らはしたい」というものでした。具体的には北前船がやってくる江差の原風景、「江差の5月は江戸にもない」という賑わいを再現しようということでした。その後のことを、時系列に簡単に申し上げますと平成5年に「いにしえ夢開道」イベントの開催開始、平成10年に「歴史のまち宣言」、平成12年に「江差町中心市街地活性化計画」策定、そして平成17年の5月に足かけ16年かかって道幅を13mに拡げる街路事業が一通り終わり(※)、オープニングイベントが行われました。現在は街路事業が終わり、街づくり事業も一段落し、次のステージに向けていろいろと準備しているといったところでしょうか。

※街路事業は平成8年に事業認可・着工となり平成16年10月で完成し、
平成17年5月にオープニングフェアのイベントを行っています。

〜いにしえ街道風景〜

 道路が拡張整備され、地域の利便性にも配慮された
街並みに生まれ変わりました。

歴史が息づくまちを彩る様々なイベント


―時間をかけていろいろな事業をやられています。
代表的なものについて簡単にご紹介ください。

 まず、いま簡単に申し上げましたが、5月と10月に行われる「いにしえ夢開道」ですね。これはもともと自分たちの夢を開いていこうという意味も込めてイベントを組んだのです。いつの間にか(笑)今年で15年目になります。
 5月のメインは幕末に江差の沖合いで沈んだ開陽丸を題材にした町民野外劇「江差幕末物語」です。これは商店街の組合員や行政の職員による手作りの野外劇です。最初は江差にある劇団に出演をお願いしたのですが、路上でなんかできないということで、我々がやっているのです。私も榎本武揚の役をやらしていただいています(笑)。10月は同じく江差の歴史をテーマにした仮装大会をやっていたのですが、参加者が少なくなってしまい、現在は職人の技をテーマにしたイベントをやっています。
 それから4年目になる朝市・新鮮組ですね。壱番蔵の前に石畳の広場がありまして、そこで5月〜9月まで第3土曜日・日曜日に開催しています。細々としたものですが、この活動を通じてお客さんとの交流や組合員同士の交流が進んでいます。

〜江差朝市・新鮮組〜

平成16年から観光シーズン中の土日に
地産地消の普及を 目的とした朝市を開催。

−イベントには江差の財産である幕末の歴史を意識したネーミングが施されているのですね。

 はい。やっぱり「歴史を生かすまちづくり」ですからね(笑)。ここで我々の情報発信基地である壱番蔵についてもご紹介しておきます。ここはもともと北前船が運ぶニシンなどの物資を貯蔵する古い土蔵だったのですが、土地を町が買いとり、建物は寄贈されたものを宝くじ助成金で一度取り壊して再築しました。ここを組合で借りて組合の資金稼ぎを兼ねて様々なイベント・夢作ライブや物販を行っています。

〜歴まちのお休み処 壱番倉蔵〜

江差町所有の 明治時代に建てられた2連の蔵を、
歴まち商店街組合が交流拠点施設として借り受け、
運営・管理を行っています。

 壱番蔵の前には姥神大神宮という道内でも一番古い神社がありまして大晦日は数多くの初詣客でにぎわいます。そこでせっかくですから12月31日から元旦にかけて年越しイベントをやろうということでこれも一回りして今年で13年続いています。一年の感謝と来年もよろしくお願いしますということで一緒にカウントダウンしたり、餅つきしたり、紙粘土で作った小さな干支を売ったりと、楽しいイベントにしています。  限定イベントということでは夏に行う夕焼けコンサートもあります。夕焼けコンサートは、いにしえ街道の一つ高台にある旧檜山爾志(にし)郡役所いう北海道の文化財の建物の前で開かれます。ビアガーデンとセットで、ビールを飲みながら美しい夕焼けと音楽が楽しめる趣向です。これは今年で9年目で、8月の一日だけの限定開催です。もちろん何日も続けたり、50人、100人じゃなくて何千人という規模の人を集める大きなコンサートもできると思いますが、あまり大きなコンサートをやっても続かないということですね。いずれの事業も背景の考え方としては、人間が中心のヒューマンスーケールの街づくり、自分たちの身の丈にあった街づくりという考え方があります。
 おもしろいところではチンドン屋というのもありますよ。これは会員のお店が新しくなった時に何か仲間として応援できないか、お祝いできないかということではじめたものです。みんなお金はないですけど、そのかわり、恥をかくことはできるし、恥をかくならみんなでかけばいいんじゃないかと(笑)。「夢作宣伝社」というのがこのチンドン屋の名前ですが「夢作」というのはこの商店街のマスコットキャラクターの丁稚の名前でもあります。
 チンチンドンドンしながら、「サービスしますよ」とか「割引しますよ」とかいうチラシを配るわけですが、まだ今頃はいいんですね。ところが12月頃になるとチラシは飛ぶし、体は凍えるし結構大変なんです。しかし、凍える中を一回りして帰ってくると「ご苦労様」と組合員が熱いお茶を出して、温かく迎えてくれる。正直、チラシの宣伝の効果は今一つでしたが、組合員同士の交流、結束を強める上では非常にいい試みだったと思います。
 チンドン屋については結構問い合わせがありますよ。開店するからきてくれ、結婚式に来てくれなどと東京あたりからも問い合わせがありますね。だいたいは物理的に無理なので断るしかないのですが、函館の福祉施設の慰問には行きましたね。そうしたらその後、自分たちでおなじようなものを作ったということです(笑)。チンドン屋なんてもともと自由にできるものですからね。

夢作宣伝社
〜歴まち商店街おかかえちんどんや〜

 商店の開店をみんなで祝い、商店街を盛り上げるため、平成11年に組合員自らちんどんやを結成。 いまや下町の
イベントにはなくてはならない存在に。

CIが商店街の活動を盛り上げる


−商店街のマスコットキャラクターがあるのですか?

 はい。「夢作」とそれから一人では寂しいだろうということで(笑)2年後ぐらいに「お路ちゃん」というキャラクターも追加しました。ホームページ、パンフレット、封筒など様々なところで活躍してもらっています。実は組合員一人一人にも似顔絵があります。組合員は自分の似顔絵を描いた看板をそれぞれの店先に出しています。こちらもホームページやそれから自分の名刺にも使っている人もいます。これらは、いずれもペン画家の柄澤照文さんにお願いして描いてもらったものです。柄澤さんは愛知県岡崎市にお住まいですが江差と縁があって、我々の活動にも様々な形で関わっていただいています。

〜似顔絵キャラクター看板〜

 店主の似顔絵キャラクターを用い、
歴まち商店街の統一看板を作成。

−柄澤さんの存在は大きいのでしょうね?

 先ほど話したチンドン屋も柄澤さんの発案なのです。仲間の開店のお祝いに何をやったらいいかを相談したら本州では「チンドン屋」が、人気があるからやってみたらどうかと。最初はちょっと無理かなと思ったけど、やろうと決めたら意外と簡単にできましたね。街づくり事業をやると何人ものコンサルや学校の先生がやってきていろいろなことをいいましたが、柄澤さんの他には誰もチンドン屋がいいなんて教えてくれなかった。他にもオープニングイベント行われた2005年には、近くの約150件の家に、お店の屋号や目印をいれた「竹かごあんどん」を作って配り、お盆の夜などにはそのあんどんをずらりと並べていただいて、散策を楽しんでいただいていますがこれも柄澤さんの発案ですし、民話日本手ぬぐい、これは江差の民話をテーマにしたもので今年で14作目、毎年お中元の時期にあわせて2000本制作する人気商品ですが、これもやはり柄澤さんに描いてもらっています。柄澤には本当にいろいろやっていただいて我々にとっては大切な存在でもあり志を同じくする仲間でもあります。

長く続ける秘訣は無理せず身の丈で楽しくやること


―本当に様々なことをやっておられますが、事務局の体制はどうなっているのですか。
また、どの事業も長く続いているのが特徴的ですね。
長く続いている理由についてもお聞かせ下さい。

 事務局は商工会内にあります。担当の指導員をはじめ、商工会の職員には大変よくやっていただき感謝しています。組合員は30人ほどですが、熱心に活動しているのはそのうちの10人くらいでしょうか、やっている事業には補助金が出ているものもありますが組合そのものには補助はありませんので、基本的には皆ボランティアで頑張っています。
 それぞれのイベントが長く続いていることについては、上からの押し付けではなくて民からの発想であること、それと先ほども言いましたが身の丈にあわないということをやらないということですね。ちょっとだけ背伸びをすることが大事なんだと思います。それと準備も含めて結構しんどいんですね。例えば5月はいろいろイベントがあって「5月の連休は江差にはない」(笑)なんて仲間内で言っているくらいですから、やっぱり楽しくやらないと続かないですね。
 続けていること自体にもメリットはあります。無理に続けているような面もありますが(笑)、長く続けることで認知もされるわけです。朝市も最初は幟をたくさん立てたし、5月と10月の「いにしえ夢開道」も最初のうちはそれこそ一日がかりで遠くまでポスターを貼りにいったりしましたが、今は認知されていますからそこまでやる必要はなくなりました。

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・前編終了  後編に続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・