Vol.79 2013.11.25
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/




【〜情報化特集 座談会〜IT活用経営で顧客ニーズを先取り】
 
 

 

奥田 敏光 株式会社アースダンボール代表取締役社長

 埼玉県伊奈町でダンボール箱メーカーを経営。創業は昭和28年、従業員45人。
 平成8年にホームページを開設したのを皮切りに、ダンボール箱のネット販売に乗り出し、ホームページから簡単に見積もりや注文ができる仕組みを整えた。小ロットの注文にも対応し、サイズやデザインも自由に変えられることが強み。

 
 
 

 

山村 惠美子 株式会社みらい蔵代表取締役社長

 大分県豊後大野市で農業資材の専門店を経営し、農業の自立を目指した事業活動に取り組む。創業は昭和27年、取扱商品は2万5,000超、顧客は100%農家(小規模農家が7割)。
 現在は、店舗での商品販売にとどまらず、外商課、農産分析研究室、米穀事業課、農産物検査登録機関などを設け、農業の発展に役立てる企業体制を整えている。

 

 

【司会】伊東 寛記 クエスト・フォー株式会社代表

 自動車メーカーでマーケティングに携わり、その後、ITベンチャーでネットショップの立ち上げに従事し、平成12年に独立。現在、千葉県市川市でWEBアプリケーションの制作をメインに業務支援システムの開発を行う一方、中小企業診断士やITコーディネータとして、中小企業の情報化支援を行う専門家としても活動。



【伊東】
 お二人の会社のIT化の取り組みについて伺っていきたいと思います。奥田社長は、平成8年にホームページを開設されたということですが、そこがIT化のスタートになったのでしょうか?

【奥田】1箱の注文から採算が取れる独自システムを開発
  当社のIT化の核となっているのは、社内で一から独自開発した原価計算システムです。ホームページの開設以前から、業界向けに販売するシステムとして開発していました。
 当時ダンボールメーカーは、工場にかかる経費をダンボールの使用量で割って算出される、1uあたりのコストの計算方法のみをベースにしていました。しかし、それでは小ロット多種類の見積もりを正確に算出することができません。
  そこで、私は個別原価計算を取り入れ、1個の発注からでも採算がとれ、お客様にとっても納得できる適正価格での販売が可能な計算式を考えました。その後、加工内容やロット、加工する機械の占有時間などを反映させ、細かい要望にも応えられるようシステムの精度を上げていきました。

【伊東】
  以前は、料金体系があいまいだった部分もあったのですか?

【奥田】
 どんぶり勘定だったと思います。加工内容を価格に自動的に反映できるようになったので、製造したダンボールの価格が明確になりました。生産経費の上に事務経費を乗せ、その上に利益目標を積み上げますので、お客様に価格提案する場合に、経費を割らずに、利益が乗せられるラインの判断ができるようになりました。

【伊東】
 山村社長は、農業資材の専門店を拠点に、農業支援の幅広い事業を展開されていますが、
ITを取り入れるようになったきっかけは何だったのですか?

【山村】顧客の購買履歴をデータ化し客単価のアップに成功
  店舗を運営するにあたって、どういう人がどういうものを買って、商品がどれくらい回転して……といった購買行動などのデータがほしくなったことが、IT化の動機でしょうか。
  当社は平成9年に農業資材店をオープンさせたのですが、想定以上に売上が低迷し、大変な苦戦を強いられました。問題点を把握して改善していくためには「数字」と「データ」が必要だと感じ、パソコンを導入して分析していくことにしました。私自身がパソコンは苦手でしたが、エクセルで顧客解析を行っており、毎日必死の思いで格闘していましたね。

【伊東】
 現在は、どんなことができるようになったのですか?

【山村】
 開店当初は、DOS版のレジで、データ解析が出しにくかったため、平成19年から店舗にパソコンレジを導入し、すべての顧客の購買履歴をデータ化するようにしました。これによって店頭でスタッフが、お客様の買い忘れがないかをサポートできるようになり、客単価のアップにつながりました。高齢の人は、レジを済ませた後にまた必要なものを思い出して何度も往復するようなことも多いので、今ではお客様の方から確認を求めてきます。
  それから、農家は1年に1回税務申告が必要ですが、例えば農薬などはレシートに記載されている表記がわかりにくくて、整理するのが大変なんです。そこで、当社では税務署の許可を得て、独自の購入証明書を発行して税務申告に活用できるようにしています。農家の方から大変好評で、毎年1〜2月はとっても忙しいですよ。

【伊東】
  ITは無理に導入するのではなく、身の丈に合ったやり方が大切です。パッケージ商品を導入するのももちろん手軽で便利ですが、それに合わせなければなりません。お二人のように自社で必要なシステムを状況に応じて付け加えたり改善させたりしていくというのは理想的ですね。
  奥田社長は見積もりシステムを開発して、小ロットでも利益が確保できる料金体系を整えました。当初は業界向けに販売していくつもりだったわけですが、それを自社のホームページ上で自動見積もり機能として公開して新たな客層からの受注につなげていますね。

【奥田】ネット販売に参入し新しい客層を掴む
  せっかく小ロットの要望に応えられるようになっても、従来どおりの業界内での売り方だと広がりはないと思いました。ネットで見積もり機能として誰でも使えるようにしたことで、間口が広がり、新しい客層を掴むことができました。
  ネット販売に参入してみると、商売のスタイルがまったく違うことがわかりました。例えば、ダンボールを発送する際に、括っている紐が箱に食い込むことがあります。業界内での取引ですと、それは当たり前のことなので何も言われませんが、一般消費者にとっては注文した商品に傷があると苦情を頂きます。お客様の要望が従来までとまったく違うので、当社の対応についても改善していきました。

【伊東】
 新しい客層への販売は、従来どおりでは通用しなかったのですね。ホームページはお客様が使いやすいことが大事だと思いますが、どんなことに気をつけていますか?

【奥田】
 ホームページでは、開発者側の都合ではなく、お客様からどう見えるかを大事にしています。
例えば、よくあるのがメールアドレスを2回入力する作業ですが、あれはお客様が入力ミスをするという前提で作られていて私は好きではありません。当社では1回の入力で済むようにしています。
  お客様の負担を最小限にとどめ、気持ちよく利用してもらうことが一番です。

【伊東】
 自動見積もり機能で工夫していることはありますか?

【奥田】
  自動見積もり機能では、単純に入力した数で見積もりを出すだけでなく、「提案」を表示するようにしています。例えば、お客様がオリジナルの寸法で10箱の見積もりを入力したとすると、20箱、30箱、40箱……と試算して「数量を増やして単価を下げる」パターンや、近い寸法の既製品による試算をして「寸法を変えて単価を下げる」パターンなどを表示させています。
  さらに、購入した場合に必要な在庫スペース、箱の強度、配送代なども表示するほか、3回以上同じ注文をしているお客様には、自動的に在庫が切れそうなタイミングを予測してお知らせメールを送れるようシステム化しています。
  少ない情報量で最大限お客様の要望にフィードバックできるよう、随時システムやホームページを見直しています。

【山村】蓄積した営農指導データで土壌診断・分析システムを開発
  当社では、ネットを活用した土壌診断・分析システム「ソイルマン」を構築、運用しています。
兄である会長が長年の営農指導で得たデータを元に考案した画期的なシステムです。今年2月に正式にリリースし、8月に特許も取得しました。農家だけでなく、大手酒造や肥料会社、農機具会社などからも引き合いがきています。
  今後はソイルマンを使って作物の品質や収量を上げ、農家の経営向上に向けた実績づくりに取り組みたいと思います。農業の数値化は必要です。農家の経験則はもちろん大事ですが、その根拠を数字で示すことで品質の証明になります。
  農業を数字で分析して技術力が向上すれば、消費者がおいしい作物を食べられるようになりますし、技術力を世界に売っていくこともできるのです。農家のIT化は進めていかなければならないと思っています。

【伊東】
  スマートフォンやタブレットの活用はしていますか?

【山村】
  営業担当がタブレットを活用しています。お客様とタブレットで商品カタログを見ながら、その場で見積もり、購入までスピーディーに行っています。細かい部品の発注などでは、品番だけでなく写真を添えることでミスが減りましたし、日報を出先で入力できるので仕事がスムーズになっているようです。
  また、畑やハウスで病害などが起きたら、携帯電話などの写メールを使って、その日のうちに解決することができます。6ヵ月間の栽培記録を写真で提供するサービスも好評です。
  ただ怖いのは、セキュリティ対策や端末の置き忘れなどによる情報漏えいの危険性です。従業員教育や部署ごとの業務フローを徹底して誓約書も書かせています。


【伊東】
 便利な半面、社外で使用する機器などは特に、万全なセキュリティ対策が必要です。IT化を進める際には、社内の業務プロセスの見直しも合わせて行わなければなりませんね。ITの導入で、従業員の変化などはありますか?

【奥田】 お客様のさまざまな要望に応えられるようになって、従業員がよくがんばるようになり、加工技術の向上にもつながっています。顧客対応のレベルも上がっていて、お客様から「従業員の対応がよい」と評価をいただけるようになりました。

【山村】
  商品ごとの責任者が育ちました。社内システムとして、商品ごとに仕入、商品管理、顧客管理、売り出しの提案などを管理し、共有できるようにしています。以前は、私がすべての商品の仕入に関わっていましたが、情報の共有化によって従業員が工夫、連携しながら行うようになり、今は仕入には関わらなくてよくなりました。
  個人で売上目標を立てたり、コスト意識や競争意識も芽生え、担当商品の勉強会を開催するなど、非常によい効果が生まれています。

【伊東】中小企業もアイデア次第で経営に役立つ活用ができる
  ITの導入が、従業員の成長にも寄与しているのですね。今後の展望をお聞かせください。

【奥田】
  当社ではコアバリューを7つ決めていて、それを事業の評価基準にしています。当社は業界の中でもいち早くITを導入し、経営改善と事業拡大に努めてきましたが、IT化自体は道具です。
一番大切なのは人同士のつながりや共感だと思っています。これからもダンボールを通して、お客様に感動や喜びを与えられる会社を目指して、ITをうまく活用しながら、「人」の力で成長していきたいと思います。

【山村】
 農業の栽培履歴を管理できる当社独自のシステム「みらい蔵GAP」を作って、安心安全な作物を提供していきたいと考えています。また、スーパーの野菜売り場で当社の圃場を中継して情報発信できるシステムの開発も検討しています。
  当社はこれからもお客様の課題解決と社会貢献に努め、「お客様の役に立ち、喜ばれ、感謝される企業」となるべく励んでいきたいと思います。

【伊東】
  一昔前まで、IT化といえば資金がある大企業でないと実現できないと思われていました。今はIT機器も安くなり、中小企業でも簡単に利用できるソフトもたくさん出ています。
  IT化は、お客様のニーズや顧客満足を追求し、経営をよくしていくための手法です。
  創意工夫次第で自社経営に役立つ活用ができるはずですので、中小企業ならではのアイデアでIT化を進めてほしいと思います。

〜ITを有効に活用している企業紹介〜

【自前のツールを駆使したネット通販が好調】
まくら株式会社(千葉県柏市)
 パソコン1台を使って始めた枕のネット通販が、10年経って年商5億円のビジネスに。
 まくら株式会社(河元智行社長)は、枕800アイテムを中心に、3万5,000アイテムの寝具類を18店舗の直営オンラインショップで販売し、自動受発注システムなど独自に開発したツールを駆使し、右肩上がりの成長を続けている。「寝具のネット通販で日本一を目指したい」と、38歳の若い経営者は目を輝かせる。
河元智行社長


【インターネットによるそろばん塾の展開で、衰退業界の中から成長へ】
株式会社イシド(千葉県白井市)
 千葉県を中心に東京都、茨城県に27の直営塾(平成25年8月現在)を展開している株式会社イシドが運営するそろばん塾。
 電卓に計算道具としての地位を奪われ、消滅するのではと言われたそろばん塾業界の中にあって、イシドは、ITの活用やそろばんを幼児の能力開発ツールとしてとらえ直す取り組みにより、受講生数を大きく伸ばしている注目のそろばん塾である。
石戸謙一会長


【IT化で観光農園の集客、通販の実績伸ばす】
理想園(山梨県甲州市勝沼町)
 わが国有数のぶどう産地の勝沼町で、観光農園を営んでいる理想園は、ITを駆使し、観光農園の集客、ぶどうや桃のネット通信販売で事業の拡大を図っている。あるべき姿を描いた5年間の中期計画と1年をサイクルとした事業計画を立てPDCA(計画、実行、評価、改善)を繰り返しながら経営をしている。それぞれの「強み」を生かし、家族一丸となって、構築したIT化で情報配信を行い集客して、売上高・経常利益ともに目標をクリアする水準になった。また、昨年4月には、正国氏が父親から経営移譲を受け、新しいスタートを切った。
園主の
草塩正国氏


【IT化やデータ管理で農家と連携した米づくりに全力】
遠田米穀店(秋田県湯沢市)
 農産物検査官がいる米屋として積極的な営農活動を行い、取引農家と一緒においしい米づくりに取り組んでいる。従業員は、社長夫婦と息子夫婦、社長の叔母の5人。家族経営の小さな店だが、「農業も数字による裏付けが必要」と力強く話す遠田義宏社長は、農家の栽培管理や稲の生育状況のデータ分析などを一手に行い、農家の栽培技術の向上に貢献している。
 仕入れた米をオリジナル商品「小野小町の郷 特別栽培米 あきたこまち」「小野小町の郷 特撰米 あきたこまち」として販売、インターネットを活用した販路拡大に加え、販売管理や会計など社内事務のIT化も推進している。
遠田社長と
妻の明美さん