Vol.68　2012.12.17 発行／編集　全国商工会連合会 http://www.shokokai.or.jp/

　葉山町商工会は、会員数726件、組織率92.6％（平成24年9月30日現在、21年度事業所統計調査784件）を誇る全国でも極めて会員満足度の高い商工会だ。�蜷V一郎会長は、「会員の求めに敏感に応えられるよう、"会員目線"を大事にしている。職員にはいつも、会員のために今日一日をどう使うか、そういう気持ちで仕事に臨んでほしいと伝えている」と力強く話す。

指導件数の8割が窓口対応
　葉山町商工会の特徴は、窓口相談件数の圧倒的な多さ。昨年度の経営改善支援事業の実績をみると、巡回指導547件、窓口指導2,492件と窓口指導が巡回指導を大幅に上回る。「毎日多くの会員さんが窓口に来ますので、巡回指導に出る時間が取りづらいのが現状です」と石井事務局長は説明する。商工会は、事務局長1人、経営指導員2人、経営支援員3人、一般職員1人の7人体制。次々と訪れる会員への対応で手一杯の状況だ。
　毎月経営データの分析を依頼している和食レストランの女将は、「地に足のついた経営サポートをしてくれる」と喜ぶ。花屋を営む女性も、「記帳や税務関係の私の苦手なところを支援してくれるので、花の仕事に専念できる」と毎月商工会に足を運ぶ。2人のように頻繁に商工会を訪れる会員からは、商工会の経営支援の丁寧さや素早い対応力に評価の声があがる。
　「担当職員でなくても、誰でも対応できる」。こうした体制を整えるため、支援情報の共有化を徹底している。記帳相談は、業種別に勘定科目も統一。現場感覚を身につける職員育成にも力を入れる。新規の飲食店ができれば、全員で食事に出かけ、店の特徴や改良点など気づいたことを話し合う。会員支援で専門家派遣をした際には、必ず同行する。
　こうした取り組みによって、どの職員も町や会員の事情に詳しく、店の特徴や現状、課題、店主の人柄まで把握。会員からの相談に、経営指導員を主体に全職員で対応する体制となっている。

イベント参加を会員に限定
　会員の満足度が高い背景には、各種商業イベントの実施が大きく影響している。葉山町の名物となった「葉山マーケット日曜朝市」を皮切りに、「ビッグハヤマ・マーケット」「葉山いきいきバザール」「葉山ふれあいマーケット」など、商業イベントを商工会が中心となって立ち上げた。会員の経営力アップの一環としており、参加資格は商工会会員であること。参加店は、当日の売上よりも、後日の来店につながる販売を目指し、営業力、広報力の強化を図っている。
　朝市は、商工会から独立した「葉山マーケット振興会」が毎週運営。約27店舗が出店し、県内外から集客、大手百貨店などのバイヤーが地域産品の物色に度々訪れる浸透ぶりだ。平成12年の開始当初は「13店舗にお客さん15人だったこともあった」（�蜑�長）が、毎週行うことで参加を希望する事業者が徐々に増加。来場者の満足度も口コミで広まり、会員増加の一端となった。
　小規模事業者の営業力を強化するために団体設立にも力を入れる。朝市の運営団体のほか、加盟店でポイントカードを発行する「はやまカード協同組合」、建築関係の業者で構成する「葉山町住宅協会」を設立。ポイントカードで町内顧客を囲い込んだり、住宅相談会の開催で受注につなげたりして、個店では弱い営業力を底上げしている。商工会では各団体の運営を支援、イベントに関しても出店者の売上まですべて把握して、次の経営支援につなげられる体制を整えている。

毎週開催する葉山漁港での朝市	ビッグハヤマ・マーケットは1日の開催で約1万3,000人を集める

創業支援も順調に推移
　葉山町は、都心から車で1時間の距離にある温暖な町。町はおよそ17と比較的狭いが、人口は約3万3,000人。天皇家の御用邸もある閑静な別荘地が広がり、町のブランド力があることからも、個性豊かな個店の創業が目立つ。ここ5年をみると、毎年25件以上の創業相談があり、そのうち20件前後は開業にこぎつけている。
　創業者が商工会を訪れるきっかけは、入居物件のオーナーや近隣の店主からの口コミがほとんどだという。
　会員が口コミで商工会の評判を広めていることについて�蜑�長は、「会員が商工会の支援に満足している表れであり嬉しい。地道な経営改善支援事業の積み重ねが実った証拠」と話す。会員数と組織率が、平成元年の598件72.4％から微増減を繰り返しながら現在に至っていることからも、"地道な積み重ね"が見て取れる。
　商工会では、「組織率や指導件数の数字を追っても会員のためにならない」と考え、経営改善支援事業の充実を図り、小規模零細事業者の目線に沿うような支援を進めるとともに、丁寧なアフターケアを行ってきた。「こうした繰り返しが会員満足につながり、結果的に会員が増えているのだと思う」と石井事務局長は話す。
　�蜑�長は、「商工会メリットを会員に押しつけて勧誘することはしたくない。会員が求めることを丁寧にやることが一番だ」と、"会員目線"の姿勢を貫く。商工会では現在、物産館の開業計画や葉山町の特産品を集めた地域交流拠点の整備計画にも取り組み、更なる会員支援に全力を注いでいく。

巡回訪問強化で、きめ細かな会員への支援が可能に
　「会員サービスの最大の目的は、会員の皆さんが商売で利益をあげられるような支援をすること。そのためには、巡回訪問を強化して会員が抱えている経営課題や悩みを的確に知ることです」（坂下啓登志摩市商工会会長）。
　三重県連では県内の全商工会で、巡回訪問強化のツールとして、月刊「商工会」を毎月手渡しで配布している。その中で、1,600軒と最も多く配布しているのが志摩市商工会だ。「毎月、商工会誌を配ることで、会員との情報交換が密になり、これまで以上に会員のニーズに沿ったキメの細かな経営支援や商工会の事業展開ができるようになりました」。太田光治事務局長は、巡回訪問強化の成果を強調する。
　志摩市商工会は、平成17年に合併し、1本所、4支所で構成。5名の経営指導員を含め、全体の職員数は合計17名で、会員総数は1,600名だ。商工会では、月刊「商工会」を毎月中旬、4、5日かけて、全職員が手分けして全会員に配る。商工会誌には県、市の制度や商工会の行事、セミナーなどのパンフレットも挟む。「これまで商工会の行事や事業のお知らせなどは郵送していましたが、商工会誌と一緒に配ることで経費削減にもつながっています」（太田事務局長）。

	坂下志摩市商工会会長

記事の読後の感想を添えて、会員の理解を得る
　三重県連から、「巡回訪問強化のツールとして、全会員に月刊『商工会』を手渡しで配布したい」との話があった時、坂下会長は、「最高のやり方だと思った」という。しかし、実際に配布してみると、会員からは「商工会誌を配るなら、その分会費を安くしてほしい」「必要ない」などの声があり、なかなか読んでもらえなかった。商工会では職員が配布しながら、「必ず参考になる記事があるはずです。ぜひ一度読んでください」と会員に説明すると同時に、「どうしたら読んでもらえるか」（坂下会長）を考えた。
　その結果、会長、副会長ら7人の役員が毎月交代で、商工会誌を読んだ感想を書いたコメントを挟んで配布することにした。「あの記事は商売の参考になった」「あの記事は、面白かったのでぜひ読んでください」など、印象に残った記事についてコメントした。コメントをつけて半年ぐらい経つと、「あの記事が良かった」「会長がコメントした記事を読んだが、商売の参考になりそうだ」など、徐々に効果が表れてきた。
　浜島町地区を担当する西飯範和経営指導員（事務局次長）は、毎月中旬に3人で約150部を配る。配布先の1つである水道設備会社を経営する宮柴水工の柴原行正社長は、「観光客が減り、人口が減少し、町は疲弊している。地域を何とかしないといけない」との思いで、商工会の理事や「イセエビ祭り」の実行委員長などを引き受け、まちおこしに力を入れている。

商工会誌を参考にして、まちづくりや商売につなげる会員も
　柴原社長は、「商工会誌は毎月、読んでいますよ。とくに、イベント関連の記事は、イベントを行う上で参考になり、イセエビ祭りでも参考にしています」と話す。柴原社長は、朝6時に起きて商工会誌が配布された日は会誌と新聞に目を通して、「いざ出陣」と気合を入れて会社に向かう。
　浜島町で「とり安精肉店」を営む井上恵子取締役は、今年3月まで女性部副部長を務めていたこともあり、女性部や女性が頑張っている記事に興味を持っているという。
　商工会誌と一緒に配布されるパンフレットで、「県や市の補助制度を知りました」と、県のファンドなどを使い、新商品の開発にも力を入れている。「まちの肉屋から、全国の肉屋」を目指し、松阪牛が入ったカレーやしぐれ煮などに続き、伊勢志摩黒豚を使った生ハムや焼き豚、ハンバーグを商品化、全国に向け販売する。
　「全会員に毎月配るのはしんどかったですが、商工会誌を配るようになって全会員を毎月1度訪問しますので、会員とのつながりが深くなった感じがします」と、西飯経営指導員は話す。会員からは、｢商工会誌に出ていたけど、どういうことですか｣「商工会誌に取り上げられている事業を、うちの地域ではできないのですか」など、経営指導員に寄せられる質問もこれまでより増えているという。「質問に答えるためには、職員も事前に記事を読んで、勉強をしておく必要があります」（西飯経営指導員）。
　商工会誌を配布し続ける中で、「いつまで手渡しが続けられるだろうか」という不安も一部にあった。「予想はしていたのですが、ポスティングが増えた時期がありました」（坂下会長）。毎月1度行われる理事と職員のミーティングで坂下会長は、「もう一度原点に帰ろう」と職員に語りかけた。その打開策として、留守の会員には、「何かありましたら、商工会にご連絡ください」と記したメッセージを残し、会員とコミュニケーションを取るようにした。

	「記事を商売やイベントの参考にしています」と 柴原宮柴水工社長（左は西飯経営指導員）

支所から職員を引き上げた後は、巡回指導の強化でカバー
　坂下会長は「それを機に、職員は成長した」との思いを強くする。職員から「ただ商工会誌を配るだけでよいのか。商工会誌を配ると同時に、どんな相談でも受けられる体制にする必要があるのではないか」という声が聞こえてきたからだ。「経営相談はもちろん、従業員に関する相談や人生相談まで、会員が抱えている相談に応じられるようになれば、さらなるコミュニケーションが生まれるはずです」（坂下会長）。
　同商工会では各支所にパートタイマーを1名置いているが、来年3月末で引き上げ、週2日間半日だけ支援員を置く体制に改める。地区懇談会を何度も開き、「巡回訪問を強化し、会員とのコミュニケーションを一層深めます」（坂下会長）ということで、地域の会員の了解を得た。
　志摩市商工会は、月刊「商工会」の手渡し配布を1つのツールに、全国の商工会が掲げる「行きます 聞きます 提案します」の実践に弾みをつける。

「自分たちの村を残したい」
　中国地方の中山間地、人口減少が著しい吉田村（現・雲南市）で、地域の衰退を止めるために、吉田村商工会（現雲南市商工会）、行政、住民が一体となり、�葛g田ふるさと村を立ち上げた。
　商工会では、農産加工品の製造販売、地域バスの運行、観光振興など、吉田ふるさと村が取り組んだコミュニティビジネスをバックアップ。これにより、新たな産業が起き、雇用の場が生まれ、地域再生への道が開かれた。

	高橋雲南市商工会会長

安心・安全にとことんこだわった数々の農産加工品が人気に
　あったかいご飯に新鮮なたまごをかけ、お好みの醤油を加える。日本人の大好きなたまごかけご飯。吉田ふるさと村ではたまごかけご飯専用の醤油を日本で初めて製造。鰹節の旨みやみりんを加えるなど試行錯誤のうえ、「おたまはん」とネーミングし、平成14年に発売した。マスコミが取り上げ、発売以来累計270万本（平成23年度末）を売り上げる大ヒット商品に。吉田ふるさと村の主力商品になっている。
　ほかにも地元の餅米でつくった「杵つきまる餅」、むらおこし特産品コンテストで全国連会長賞を受賞した調味料「青とうがらし＆ニンニク」など60品目を製造販売している。どれも地元産の野菜や味噌、自社栽培の農産物など厳選した原料を使い、安心・安全にとことんこだわった品ばかり。通販サイト「だんだん市場」を設け、ネット販売にも力を入れている。
　購入者からは「素材はもちろん、使う調味料も無添加。安心・安全に取り組む徹底した姿勢に信頼感があります。味もいいので、すごくうれしい」などの声が多く寄せられている。

地域住民のために地域バスの運行、上水道施設の管理も
　吉田ふるさと村では、市から地域バスの運行、上水道施設の管理も請け負っている。
「ふるさとで安心して快適に暮らしてもらいたい。生活していくうえで、安定して水が供給されること、出かけていく��足�≠ｪ確保されていることって、基本ですよね。だから、当社でやらせてもらいました」と、高岡裕司吉田ふるさと村社長は力強く語る。
6町村合併で雲南市が誕生する前の吉田村では、水道管が破裂したときは村外の業者に修繕を依頼するしかなく、断水が長時間続いていた。平成3年に吉田ふるさと村が建設業の許可を取得し、家庭用給排水衛生設備工事を請け負ってからは、こうした不便が解消された。
　また、JRのバス路線が廃止となっていた村内で、地域バス5路線の運行を請け負った。毎日約20便、山あいの細い道を走らせており、通学や通院に欠かせない交通手段となっている。

旅行業もスタート！
　交流人口を拡大させ、地域の活性化を図るねらいから、平成22年に旅行業務取扱管理者資格を取得し、旅行業をスタートさせた。
　江戸時代に栄えた「たたら製鉄」の遺構、日本の原風景ともいえる農村の景観や奥出雲の豊かな自然、地元の「食」を組み込んだツアーなど、着地型観光商品の企画販売に力を入れている。まだ旅行客の入り込みは多くないが、来春には中国横断自動車道が広島県三次市まで、平成27年には尾道市まで伸びる。
　高岡社長も「出雲、松江と連携させて、山陽エリアからの誘客を図りたい」と意欲をみせる。


吉田ふるさと村、商工会、行政、住民の連携で、地域再生へ
　「著しい過疎化を何としても食い止め、働ける場所を確保して、村を再生したい」。こうした住民の思いから、吉田ふるさと村は昭和60年に設立された。
当時、商工会員、行政、住民で構成される発起人会が全住民宅を回り、1,000万円の資金を集める。行政からの500万円と合わせ、資本金1,500万円、従業員6名、住民を主たる株主とする第3セクターとしてスタートを切った。
　現在（平成23年度）では、資本金6,000万円、農産加工部、水道部、バス事業部、観光事業部など6部門で事業を展開し、売上4億1,000万円、従業員65名（パート社員を含む）にまで業容を拡大。多くの事業部門を立ち上げ、雇用の拡大に貢献をしている。
　こうした成果に、高岡社長は「安心・安全な商品提供など明確な経営方針を徹底できたこと、限られた人数で多くの仕事をこなしてくれた従業員の頑張り、そして商工会、行政、住民と連携を図って事業に取り組めたことが、ここまでやれた理由ではないか」と振り返る。

	吉田ふるさと村を引っ張る高岡社長	「おたまはん」（右）など安心・安全な食品

吉田ふるさと村のコミュニティビジネスを支える商工会
　商工会では、これまで吉田ふるさと村と歩調を合わせて、コミュニティビジネスによる地域活性化に取り組んできた。
　現在も行政と「スパイスプロジェクト」を設け、地元特産の「オロチの爪」の活用を全面支援中。これはまろやかな辛みが特徴の大型トウガラシで、吉田ふるさと村と、商品開発、販路拡大に取り組んでいる。
　また、養鶏が盛んな同市で、たまごを使った地域おこしを進めようと、「たまごプロジェクト」を立ち上げた。さまざまなオムライスが楽しめる飲食店を増やし、オムライスの名所化を目指している。
　観光事業では、着地型観光商品の企画製作をサポート。観光関係事業者を集めた商品開発委員会を設置し、地元の出雲神話「ヤマタノオロチ伝説」をベースにした「ヤマタノオロチ伝承地巡り観光ツアー」を商品化。現在、吉田ふるさと村観光事業部が窓口になって販売している。
　これまで二人三脚で過疎からの脱却をめざしてきた吉田ふるさと村と商工会。高橋日出男雲南市商工会長は、「吉田ふるさと村は、雲南市にとって、なくてはならない会社です。コミュニティビジネスに取り組み、安心・安全をコンセプトに、多くの消費者に支持される商品をつくり、この過疎の地に多くの雇用を生み出してきました。これからも、ふるさと吉田で生活できる希望をもたらす会社であり続けてほしいと思っています。商工会はこれからも精一杯支援をしていく考えです」と期待を込めて、エールを送る。

	観光スポットと期待される「たたら製鉄」の遺構

＊ 詳しくは月刊「Shokokai」１２月号をご覧下さい。