Vol.52 2011.08.11
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/


座談会 組織課題を乗り越え、会員満足を高めるために

 商工会は会員減少問題をはじめ、事業費化問題など、多くの問題を抱えている。そこで、全国連に設置している「商工会相談指導事業改革検討委員会」の検討経過を踏まえ、商工会が直面しているさまざまな課題を克服する方策とさらなる会員満足向上への取り組みを考える。

〈出席者〉

加藤 亨二 宮城県商工会連合会専務理事
柘植 満博 三重県伊賀市商工会会長
今村  實 大阪府商工会連合会専務理事
山川 宗克 沖縄県本部町商工会会長

〈司 会〉

後藤  準 全国商工会連合会常務理事



後藤 全国連では、平成21年から「相談指導事業改革検討委員会」を発足して、巡回を軸とした会員への支援強化のあり方を検討してきました。昨年すでに中間報告を出しており、みなさまにもご覧いただいていると思いますが、その報告書の内容も踏まえて、今後の商工会発展の方策についてご意見をお聞きしていきたいと思います。
 それでは、商工会長のお二人から、まずは地域の概略と商工会が抱える課題についてお話しください。
柘植 伊賀市は、大阪、名古屋から車で1時間半の距離に位置しています。昭和40年ごろに名阪国道が開通したのを機に、工業立地が盛んになりました。
 平成16年に1市5町村が合併し、翌年に5つの商工会が合併しました。合併当初、商工会地区内の事業者数は1326、そのうち商工会会員は88 6でしたが、今は事業者数1240、会員756と大幅に減少しました。会員減少を食い止めることが、当面の大きな課題となっています。

柘植満博 三重県伊賀市商工会会長

山川 本部町は、那覇市内から車で2時間ほどの、“やんばる”と呼ばれる県北の地域です。昭和50年に沖縄国際海洋博覧会が開催されたのをきっかけに観光産業が盛んになり、「沖縄美ら海水族館」の開館以降、県の年間観光客570万人のうち300万人が町を訪れるようになりました。
 これによって、移住してきた人たちが宿泊施設や土産屋、飲食店など開くようになったので、彼らをターゲットに会員増強を図り、ここ3年間で組織率を60%から80%に引き上げることができました。今後は、この組織率を維持していくことが課題です。

会員の意見や要望を報告シートで全役職員が把握

後藤 伊賀市商工会では、会員満足度を向上するためにどのような事業に取り組んでいますか?
柘植 職員は、毎月の行動目標を会長承認のうえで設定し、『月刊商工会』誌を持参して全会員へ毎月訪問するようにしています。併せて、会員の増強を図るため、未加入事業者への巡回訪問にも努めています。件数としては年間9000件ほど回ります。そこで得た相談や意見に対して、三重県連や広域連合の協力も得ながら対応しています。
 合併当時は5つの商工会を1ヵ所にまとめてしまうことの不安から、支所としてそのまま残しましたが、将来は支所の維持継続が難しくなることが予想されます。そういった状況下で、会員満足度を高めながら引き続き会員継続してもらうためには、会員メリットになるような特色を出していかなければなりません。
後藤 『月刊商工会』誌の配布は一つの特色ですね。これは全国でも三重県だけの取り組みです。1事業者に対して、最低でも年間12回は足を運ぶことになります。
柘植 当初は、会員さんから「持ってきてもいらんで」と言われることもありましたが、何度も持っていくうちに「届くのが待ち遠しい」と言われることが多くなっています。全国の会員の動きもわかって参考になりますから。
 ほかには、県や市の広報誌や情報誌なども持参して、会員への情報提供とコミュニケーションツールとして活用しています。
 こうした巡回活動から吸い上げた意見や要望などを、職員が会員訪問報告等意見シートに記載して局長に提出し、その後、会長に上げる仕組みにして、商工会役職員全員が会員事業者のニーズの把握に努めています。
後藤 本部町商工会は、短期間に大幅な会員増強を実現されました。何が一番効果を発揮されたのでしょうか?

非会員へのサポート惜しまず最終的に商工会加入へつなげる

山川 実績を上げるために、さまざまな取り組みをしてきましたが、結果的には「会員、非会員にかかわらず、地域事業者を支援する」という視点が功を奏したと思っています。
 沖縄県連では、平成20年から2万人会員増強運動に取り組み始め、本部町商工会も、新規創業者や既存事業所の取り込みに励みました。3年間で新規282件の会員増を実現し、町内682事業所のうち546事業所が会員となっています。

山川宗克 沖縄県本部町商工会会長

後藤 具体的にはどんな取り組みだったんですか?
山川 例えば、町営市場でまちづくりと新規創業者支援に取り組みました。空き店舗が増え活気を失いつつあった町営市場で、5年ほど前から若者が集まって、「もとぶ手づくり市」というフリーマーケットを月1回開催していました。元気な若者たちと一緒に、町の活性化を考えられないかと、まずは休憩場所を設置して、手づくり市メンバーとともに勉強会を開き、町の活性化について意見を出し合いました。
 その後、空き店舗への入居募集をかけたところ、9軒に対して20名の応募があり、面接でやる気のある人を選出して、彼らの出店を商工会がサポートしてきました。当初は会員ではありませんでしたが、「今はがんばって店を持って、軌道に乗ってきたらぜひ商工会にも加入してね」とエールを送り続け、今では中心メンバーのほとんどが会員になっています。
後藤 まずは、商工会が歩み寄って、地域事業者へのサポートをされたわけですね。
山川 とにかく商工会に少しでも興味を持ってもらうきっかけを作っています。町内初の発行となる地域商品券の加盟店にも、会員、非会員にかかわらず無料で登録できるようにしました。参加店舗の間口を広げて、これをきっかけに商工会への加入を働きかけていくつもりです。
 地域活性化事業の一つ。「沖縄そばの町宣言」事業で作成したマップに、町内すべての沖縄そば提供店を掲載しています。会員店舗については多少の差別化として、より詳しく記載するようにしていますが、非会員にも商工会の取り組みを知ってもらう機会と捉えて掲載しています。

一斉巡回訪問、目標件数を126%達成

後藤 それでは、連合会では商工会をどのように支援されているのかを伺っていきます。宮城県は震災復興が最優先だとは思いますが、震災以前の商工会運営も含めて、会員満足を高めるためにどんな取り組みをしてきましたか?
加藤 会員のニーズを把握して的確に支援していくには、やはり巡回訪問が一番効果的だということで、宮城県連では、巡回訪問件数の5%アップを目標にしてきました。
 ここ5年間で、宮城県内の商工会の組織率は56%まで落ちています。毎年減っている状況ですので、最低でも60%に戻したいという目標件数を立てております。巡回については各商工会の自主性に任せたため、達成にばらつきが出てしまいました。
後藤 それに対して、どのような対策をとられたのですか?
加藤 対策として22年度からは、全職員による一斉巡回訪問を全会員年3回実施しました。7万件を目標にしていましたが、実際には8万8000件と126・5%の実績となりました。一指導員の年間訪問件数についても、以前は340件ほどでしたが、今は647件と大幅に増えています。
 23年度もこの取り組みを続けながら、レベルアップしていきたいと思っています。

人件費の事業費化で会員の支援体制が大きく変更

後藤 会員満足を高めるための地域での事業者支援について伺ってきましたが、今までのお話から、やはり会員のニーズを最も把握できるのは巡回訪問です。続いては、会員支援を円滑に進めるための「組織運営」について話を進めていきたいと思います。
今村 大阪府では、橋下知事の就任から半年ほど経った平成20年8月から、補助金の仕組みが、大きく分けて3つのポイントで改定されました。@人件費補助から事業費補助へ、A事業目標設定と競争原理の導入、B成果主義の見える化です。また、支援対象は当然のことながら会員、非会員の区別がありません。指導員の活動地域にも制限がなくなり、府内どこでも経営支援が可能になりました。

今村實 大阪府連専務理事

後藤 補助対象となる事業はどのようになったのですか?
今村 補助対象事業となるのは、事業所への支援活動です。組織内部の強化のための商工会の運営指導や職員研修などは補助対象にはなりません。ただ、指導員の研修に関しては、事業所支援に必要なものとして対象に認められています。一方で、共済など手数料収入が見込めるものに関しての活動は対象とはなりません。
後藤 支援目標については、商工会独自で決定できないのですか?
今村 経営支援事業の組み立てとして地域の自主性を活かすという観点で、商工会が事業目標や支援活動の計画書を府に提出し、これを大阪府が設置している第3者機関である評価委員会で評価のうえ、決定された計画について実行していきます。
 事業終了後にも、委員会で活動報告書を評価のうえ、その件数と単価をもとに補助金が算出されます。この活動報告書は事業所のカルテ、サービス提案書、各種の支援報告書、相談票などであり、支援実績に応じた補助となっています。
後藤 計画から実行、成果まで、府の厳しいチェックが入りますね。
今村 PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルが徹底されています。
 以前は、巡回や窓口指導の「回数」に対する補助もありましたが、今は補助金の判断基準には入りません。より成果を重視した実績主義となりました。セミナーも、参加者数などで評価します。報告書の様式は非常に細かく、内容も詳細にチェックされます。

会員支援に効果的な組織運営を

後藤 地域の中で何を柱に商工会活動を行っていくかが大きな課題であり、それには会員満足度をどのように伸ばして商工会の存在意義を高めていくかが重要になってきますね。商工会での職員の資質向上については、どのように取り組まれていますか?
柘植 会員と直に接して信頼を得ながら、的確な支援を行っていくのが商工会の経営支援のあり方だと考えます。
 そうした効果的な巡回訪問を実施するためには、商工会全体のマネジメントが重要です。伊賀市では、経営指導員以外の職員も中小企業大学校の研修に参加させたり、研修会を開催して、職員のスキルアップを図っています。
 また、意識づくりとしては、「会員に対しても地域に対しても、常時“信頼”を頭において接してください」と会長の立場から伝えています。職員の報告書を見ていると「会員さんからの“ありがとう”が励みになる」とよく書かれていますので、職員のやる気を引き出すために、何か会員さんにも協力してもらえることがないかと考えています。
山川 理事会と部会を毎月交互に開催して、指導員にも参加してもらっています。現状の報告やこれからの取り組みなどについて、会員さんと一緒に考えることで、能力アップにつなげていきます。
 また、会員増強で会費が増え、部会費も増えたことで、事業に取り組む際に事前に勉強会や視察研修などを行う余裕が生まれました。これは、会員だけでなく職員のスキルアップにも効果を発揮しています。

“提案します”に力を入れて組織内に専門家を設置

後藤 宮城県連、大阪府連では、連合会の立場から職員の能力向上にどのような取り組みをしていますか?
加藤 商工会で毎月「経営支援会議」を開催しています。県連職員も必ず参加して商工会職員が集まり、地域内の商工業者の状況を話し合い、今月の巡回の内容について共有し、翌月の巡回に活かしています。
 さらに今年度は、「行きます 聞きます 提案します」の“提案します”の部分に力を入れた仕組みづくりを商工会では工夫しています。全県下を網羅して専門的課題を指導するサポーティングリーダー(SL)を設置しました。経営指導員から中小企業診断士の資格保有者や、経営革新や農商工連携などに熱心な方などがメンバーです。
 支援要請があれば、県内どこでも駆けつけますが、その際には必ず現地の指導員も同行して会員さんに一緒に支援することで指導員の能力アップにつなげています。指導員の能力向上支援の一つの柱となっています。

加藤亨 二宮城県連専務理事

今村 経営支援や巡回は、以前は、どちらかというと経営指導員の自主性に任せていましたが、やはり効率的な運営には、事務局長によるマネジメントが重要です。コミュニティビジネスやソーシャルビジネスなどの研修も織り交ぜながら、地域の課題への取り組みも視野に入れた幅広い経営支援を促し、職員の仕事に対するモチベーションをあげていくことが大事だと考えています。
後藤 さて、3月11日の東日本大震災を受けて、全国連の改革検討委員会では巡回強化戦略に加えて、震災などでの商工会の危機対応や、全国の商工会が一丸となった復興支援の体制づくりに関する提言を追加したうえで最終的な報告書をまとめることにしています。まずは、宮城県連の加藤専務から、被災地の状況をお聞かせください。

震災マニュアル策定も、想定外ばかり

加藤 今回の震災では、全国の商工会や会員のみなさまに多大な支援をいただきました。本当にありがたく、ほかの組織と比べても、商工会組織は非常にすばらしい組織だと強く感じた次第です。
 宮城県内では、沿岸部の11商工会が津波の被害に遭い、22商工会が地震によって大きな被害を受けました。全会員2万4000人のうち、1万1000人が被災しています。営業停止や廃業に追い込まれた会員さんは、今のところ2400人で10%ほどですが、これからどんどん増えていくでしょう。亡くなられた会員さんも、320名にのぼります。商工会館は、7棟が津波で流失、2棟が全壊、一部損壊も10棟あります。
 被害総額は、6月末時点で2000億円くらいですが、沿岸部についてはまだ確認できていない部分もあり、大幅に増える見込みです。
後藤 宮城県連では、災害に備えた対策マニュアルを作成されていたそうですね。
加藤 宮城県連では、3年前の岩手・宮城内陸地震をきっかけに、大規模災害マニュアルを策定いたしました。そのマニュアルでは役職員・会員の安否確認と商工会資産保護、業務の早期復旧を行うことになっておりましたが、今回の震災では予想もしなかったことが多く起こりました。まず全県下で巨大地震と沿岸部ですべての大津波があったことです。それにより、全県下ライフラインはまったく寸断され、連絡ができない状態が1週間以上続きました。車のガソリンがまったくなく、どこにも動けない状態でした。
 その後、ライフラインも少しずつ整ってきて、役職員・会員の安否確認と被害調査を行えるようになりました。ところが、大津波で被災された地域はまったく動けなかった状態です。商工会館が倒壊流失したところは、別の商工会に間借りをしたり、仮設事務所に入居したりして会員の相談に応じております。
後藤 想定外のことが多く起こったわけですね。全国連では今回の震災を教訓に、津波によりデータを流失した企業に対するさまざまな復興支援を国の第2次、第3次の補正予算として要望しています。加えて、今回の震災を教訓として、全国の小規模事業者のデータをバックアップする仕組みづくりについても要望しているところです。

被災地復興支援プランの作成で一日も早い東北の復興を目指す

後藤 全国連ではこれまで商工会の「地域貢献プラン」の作成を促進してきました。商工会の活動を地域行政や住民など広く一般の方々に理解してもらうための取り組みですが、今年は全商工会に「被災地復興支援プラン」の作成をお願いしているところです。それぞれの商工会での支援計画が、被災地だけでなく日本経済を盛り上げる一事業となることを期待しています。
加藤 全国から、義援金のほかにもたくさんの支援をいただいています。先日は、沖縄県の商工会関係のみなさまが、観光産業支援東北応援ツアーで来てくださいました。本当にありがたいことです。
後藤 復興には息の長い支援が必要です。全組織をあげて、一日も早く東北に元気が戻るように支援し続けていくとともに、突然の天災などに備えた危機管理体制の導入についても検討して、会員が安心して相談できる商工会を築き上げていきたいと思います。
 では最後に、会員満足向上や組織活性化へのメッセージを一言ずつお話しください。

後藤準 全国連常務理事

柘植 私は今年5月に会長になったばかりではありますが、会員さんが求めるものにしっかり応えながら地域をけん引できる組織となれるよう、連合会や地域団体とも連携しながら、役職員一同がんばっていきたいと思います。
山川 会員さんと協力しながら、新しいアイデアを持った元気なまちづくりを進めていきたいですね。会員のみなさんに「商工会に入っていてよかった」と思われる事業を続けていきたいと思います。
今村 小規模事業補助金の仕組みの変化が会員さんにデメリットにならないように、地道で丁寧な会員支援を続けていきたいと思います。さらに、地域課題への支援も幅広く取り組めるよう努めていきたいです。
加藤 行政と一緒に、会員や住民の復興支援にあたりたいと思っています。被災者はみな、ゼロかマイナスからの出発です。とにかくやる気のある人を可能な限りサポートしながら、一日も早いまちの復興を目指していきたいと思います。


* 詳しくは月刊「Shokokai」8月号をご覧下さい。