Vol.47 2011.03.18
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/


逆風に負けない強い経営を

 全国商工会青年部連合会では、青年部員の家業の経営力強化と後継者としての資質向上を目指して、後継者育成塾の開催や経営革新承認の取得に向けた支援に取り組んでいる。
 今回は、地域経済について詳しい一橋大学大学院の関満博教授の司会のもと、経営革新の承認を取得して家業の発展に励む二人の青年部員に、経営革新のメリットや青年部活動について語っていただいた。

〈出席者〉

関 満博  一橋大学大学院商学研究科 教授

佐藤慶太  合資会社佐藤商事 専務
(秋田県ゆざわ小町商工会青年部)

君岡鉄兵  君岡鉄工株式会社 営業部サブリーダー
(奈良県都祁商工会青年部)



 まずは、お二人から自己紹介をお願いします。
君岡 家業は金属製品の製造業をしています。父が祖父の鉄工所から独立して、昭和48年に創業しました。従業員は18人です。
 私自身は高校を卒業して海外留学をしていましたが、父が平成5年に自社製品を開発したことをきっかけに家業に戻り、今は営業を中心に担当しています。28歳のときに商工会の経営指導員の誘いで青年部に入部しました。
佐藤 伝統工芸・川連漆器の製造卸業を営んでいます。私は3代目です。祖父が昭和22年に創業して、41年に法人化しました。従業員11人中7人が職人です。
 私は、東京の大学を卒業して会社勤めをしましたが、“メーカーは強い”ということを実感し、26歳のとき、地元に戻りました。青年部に入部したのは平成13年で、21年から青年部長を務めています。
 お二人とも一度地元を離れて、後継者として家業に戻ったのですね。私はかれこれ40年、地域経済の問題や課題について研究してきました。その中で、日本社会が今一番取り組まなければならないのは「後継者の育成」だと思っているんです。
終戦後、競争によってレベルアップしてきた日本の企業ですが、昭和60年をピークに企業数は減少し、競争力は低下しています。
 これに対して国は、新規創業を促して経済の活性化を図りました。しかし、今の日本の技術力を備えた製造業を創業するとなれば、初期投資に最低1億円はかかるでしょう。35歳前後の男に1億円を投資してくれる人は、まずいません。
 そうなると、今ある中小企業を存続させることが本当に大事になってくるわけです。さらにいえば、後継者は家族の中から探すべきでしょう。経営者として本当の意味で覚悟があるのは、息子、娘、娘婿だけです。毎月給料日に給料をもらっているサラリーマンには、毎月給料日に給料を支払っていた創業社長の気概は備わりにくいでしょう。お二人には、後継者としてますますがんばってほしいと思います。
 さて、お二人とも経営革新の承認を取得されているということですね。

関 満博教授

ISOや経営革新事業の承認取得で3年間に売上が50%増加

君岡 自社製品の杭「くい丸」を開発して18年になります。それまでは、仮設足場用部品の下請けがメインの仕事でした。しかし、バブル崩壊でメインの取引先が倒産。下請け仕事だけでは生き残れないことを痛感し、温めていた商品の開発に取り組みました。
完成した「くい丸」は、アスファルトにも打ち込める強度と、繰り返し使用できることが強みです。新幹線のレールの基準杭に採用されているほか、屋外広告や建築資材など、さまざまなものに使用されています。
 商品化して10年ほど経った頃、奈良県商工会連合会からISO9001の認証取得を勧められました。これをきっかけに経営指導員さんとの付き合いが深まり、「くい丸」の販路拡大に向けて経営革新を提案してくれたので、チャレンジしました。
 そして承認されたわけですね。
君岡 経営革新以前から、「くい丸」の需要に対して供給面に不安を感じていました。そこで、承認後に工場を増床して、生産ラインの改善と効率化を進めました。おかげさまで生産能力が40%向上し、3年後には売上を50%増加させることができました。ISO14001の認証も取得しました。
 経営革新の承認を得たことによってメリットはありましたか?
君岡 自分たちは精一杯経営しているつもりでも、曖昧なまま進んでいる部分もありました。経営目標の設定から財務分析、販売戦略まで、しっかりと自社の現状と課題、将来を整理することができたことは、大きなメリットです。

木製、手塗り、本漆のユニバーサルデザイン漆器を開発

 佐藤さんはいかがですか?
佐藤 800年の歴史を持つ川連漆器は、軽くて丈夫な日用品として多くのファンがいました。ところが、大量生産による安い器を選ぶ消費者が増え、伝統工芸として品位や質を守り抜いた川連漆器は、良くも悪くも“高級品”となり、需要が伸び悩んでいます。
 当社の経営課題は、問屋からの受注頼りの“待ちの体質”でした。職人も規格品の生産ばかりで、意欲も湧きません。そこで、自社の思いを伝える商品を作りたいと考えました。
新商品開発のために補助金制度を活用できないかと商工会に相談したところ、「まず経営革新の承認を取得したほうが認定されやすい」と提案していただきました。そこで、高齢者や身体障害者の方々も含めてどんな人にも使いやすいユニバーサルデザインの漆器開発で承認を得ました。
 ユニバーサルデザインの漆器とは、おもしろいですね!
佐藤 「木製、手塗り、本漆」という川連漆器の伝統にこだわりながら、持ち手をつけたお椀や手の不自由な方も使いやすい湯呑みなど、これまでの川連にない商品を製作しています。デイサービスに通っている高齢者の方々にモニター協力していただきました。
商品は主に、大手デパートの漆器コーナーで販売されています。漆器といえば黒や赤ですが、洋室にも合うように、ピンク、緑、青、白も揃え、6色のカラーバリエーションで展開しています。
 店頭で販売している漆器に対して、消費者からは「きれい」とか「天然素材で身体にやさしい」といった感想をよく聞きます。一方で、陶器に対しては「かわいい」という言葉が使われるんです。これは漆器にはない言葉でした。それで、漆器にはデザイン性が足りなかったことに気づき、デザイン力の強化を始めました。
「きれい」「やさしい」「かわいい」をキーワードに、有名キャラクターをデザインに取り入れたり、ヒョウ柄のリボンを蒔絵で描いてみたりと、若い女性に手に取ってもらえるような商品開発に取り組んでいます。

国内にライバルはない「くい丸」第2期計画で海外展開へ

 経営革新に取り組んで、何か変化したことはありますか?
君岡 昨年から取り組んでいる経営革新の第2期計画では、海外への販路拡大を目指しています。「くい丸」は、再利用・再資源化ができる環境にやさしい製品ですので、環境先進国ドイツへの進出を狙っています。商工会の専門家派遣を活用しながら、弟が担当してがんばっています。
 加えてこれからは、建設業界だけでなく、さまざまな市場に参入を目指しています。自衛隊の演習用や戸建て住宅の簡易杭のほか、最近ではイノシシなどの獣害防止柵に使用されることも増えています。まだ国内の杭市場の10%にも達していませんので、どんどん増やしていきたいです。

君岡鉄兵さん

上海万博での漆器出展で中国進出の可能性を感じた

 漆器と陶器の技術は、日本は世界一だと思っています。中国など、海外への展開もおもしろいのではないですか?
佐藤 中国人のお客様からの依頼は増えています。中国の伝統菓子・月餅を入れる漆塗りの箱がほしいとか、沈金(彫ったところを金粉で埋める装飾技法)で名入れをしてほしいとか。
秋田県商工会連合会の支援のもと、全国連を通して上海万博にも出展させていただきましたが、中国進出の可能性を感じました。
 今までのお話から、お二人とも経営革新やそのほかの支援施策などにも積極的に取り組み、後継者としてしっかりと家業に向き合っていることが伝わってきました。
私は、後継者が身につけなければならないことは、現場、営業、資金繰り、人事、この4つだと思います。これらをバランスよく身につけるためには、30代後半〜40代が一番勉強しなければならない時期でしょう。
 さて、商工会青年部員のみなさんは、企業の後継者のほかに、地域の後継者としての役割もあると思います。

商工会青年部員には地域の牽引役として期待

君岡 私の地域の青年部は、地域の活性化を目的に活動しています。お祭りや清掃活動などを通じて地域貢献活動を行い、地域の方々から好評を得ております。地域の青年団が少なくなったこともあって、若い力が必要とされているのを感じます。後継者としての資質向上の面では、講演会やセミナーなどの勉強会を開催して互いに知識を深め合っています。
また、奈良県3ブロックの青年部員の代表が中心になって、より一層会員企業の交流を深める場を企画したり、会員企業の商品の販売促進を図る活動をしたりしています。特に奈良県青連の会長は、青年部の会員企業における経営革新の承認取得に力を注がれていて、県内はもちろん県外にも赴かれて勉強会を開催されるなど、積極的に承認取得の輪を広げられています。
佐藤 平成21年から青年部長をしていますが、地域への誘客をテーマに青年部活動をしています。田舎体験のモニターツアーを実施するなど、青年部活動によって3年で1000人くらいの観光客誘致につながりました。
また、JC、商工会議所青年部と連携してまちづくりを進め、地元商業高校の生徒も一緒に地熱発電PRツアーを企画しました。

佐藤慶太さん

 地域でさまざまな活動をされていますね。昔は、学校長や駅長、郵便局長など、権威のある地域の“長”となる人が必ずいて、その人たちが地域をまとめていたものです。 しかし今は、そういった人がいなくなってしまった。これからは、行政の意欲ある若手職員、商工会や商工会議所の若手職員、地域中小企業の若手後継者や経営者が、一緒になって地域を引っ張っていかなければなりません。
 そして、地域貢献活動も大事ですが、次の時代を担う企業の後継者として、しっかり勉強して企業を存続、発展させることで、地域貢献につなげてほしいと思います。みなさんは、企業の中心であり、地域のリーダーとなるべき方々です。青年部員同士、商工会の全国ネットワークを活かして結束しながら、精一杯がんばっていただくことを期待しています。


* 詳しくは月刊「Shokokai」3月号をご覧下さい。