Vol.38 2010.6.11
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/


環境座談会
 CO2排出削減への取り組みは, 小規模事業者のメリットになるのか?
地球温暖化対策は、待ったなしの問題。温室効果ガスの排出を効果的に削減する必要があり、企業や家庭におけるCO2削減や環境への取り組みは、一層強く求められようとしている。そうしたなか、小規模事業者はどのように温暖化問題に対応すればよいか、この分野に詳しい3方に、小規模企業の取るべきステップや省エネがもたらす経営改善効果などについて、大いに語っていただいた。

【出席者】
坂野成俊 株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部      公共コンサルティング事業部 シニアコンサルタント
竹内英二 日本政策金融公庫総合研究所主席研究員
本多光一 富山県商工会連合会広域指導課課長代理

【司会】
寺田範雄 全国商工会連合会専務理事



寺田 まずは、みなさんの自己紹介をお願いします。 坂野 富士通総研の公共コンサルティング事業部で、自治体や中央省庁などに対する環境を含むコンサルティング業務を行っています。地球温暖化対策制度の活用についても調査・研究をしています。
竹内 日本政策金融公庫の総合研究所に所属し、小規模企業の役割や社会的意義をテーマに調査を行っています。昨年は、小規模企業の環境問題への取り組み状況について調査をしました。
本多 平成18年から富山県商工会連合会で専門経営指導員を担当しております。以前は、入善町、宇奈月、朝日町商工会に勤めていました。経営革新支援や農商工連携の認定支援などのほか、昨年からは新しい経営支援として省エネをテーマに取り組みを始めたところです。

「省エネ」プラス「創エネ」がトレンド

寺田 地球温暖化の現状と国や大企業の取り組みについて教えてください。
坂野 1992年の地球サミットを契機に、地球温暖化問題がクローズアップされ始めました。その頃は予防的アプローチの性格が強かったのですが、この5年くらいで環境に対する企業のルールが変わり、「取り組んだ方がいい」から「取り組まなければならない」になっているように思います。
 日本では、97年の京都議定書からさまざまな制度が現れ、CO2排出規制が加速し始めました。イギリスのスタンレポートによると、今後100年で世界の平均気温が5度上がると、GDPで20%のダメージがあるといわれています。地球温暖化は不可逆的で、一度起こるともとには戻りません。
 昨年からは電力の固定価格買い取り制度も始まり、従来の「省エネ」にプラスして、自分で発電してエネルギーを創る「創エネ」の取り組みが、世界的トレンドとなってきています。

坂野成俊シニアコンサルタント

中小企業の環境対策の中心は廃棄物削減と省エネ

寺田 小規模企業のCO2削減への取り組みの現状について教えてください。
竹内 製造・卸・建設業を中心に昨年行った環境問題への取り組み調査では小規模企業の4分の1が「法律や条例に従っているだけ」で、4分の3が「法律や条例に従うこと以外にも取り組んでいる」という結果になりました。
 具体的な内容として一番多いのが「廃棄物削減」、次に「エネルギー消費量の削減(省エネ)」、地球温暖化対策として「CO2削減」も挙がりました。
 とはいえ、設備投資を行うまでには至っていません。営業用の車をハイブリッドカーや低公害車に買い替える程度です。まずは、「できることからやっていく」というのが実態のようです。
寺田 取引先の大企業などから要請されて取り組む例は多いのでしょうか?
坂野 これから増えていくだろうと思います。例えば、ヨーロッパに輸出する製品は2006年から施行されているRoHS(ローズ)指令というEU(欧州連合)による電子・電気機器における特定有害物質の使用制限に対応しなければなりませんので、大企業も下請け企業に対して環境に配慮したものづくりを求めてきます。
 大企業の社会的責任の面からも、取引先の中小企業への要請は高まるでしょう。グローバル化するほど、より強く環境への配慮が求められますので、中小企業もこれに対応していかないと厳しい状況が出てくるのではないでしょうか。

省エネを切り口に会員の経営改善を図る

寺田 富山県連で取り組んでいる省エネ診断事業について、具体的な取り組みや効果についてお聞かせください。
本多 平成21年度から県の支援を受けながら、「省エネ簡易診断事業」に取り組んでいます。省エネ診断員10名を専門家登録し、専門家が現場でヒアリングを行いながら、省エネの観点から経営指導を行います。
 この事業は、環境対策というよりは、経営支援のためにという視点で行っています。経営指導の現場で製造コストの削減に苦労する事業者の姿を見て、省エネという切り口で会員企業の経営改善が図れないかと思いました。
 これまでの財務諸表を切り口にした指導ではなく、製造現場や店舗現場での省エネを切り口とした経営改善を図り、財務諸表に反映させていく、という逆の発想で取り組んでいます。

大企業はCSR、中小企業はコスト削減

寺田 大企業と中小企業の環境保全への取り組みに違いはありますか?
坂野 やはり、目的の違いを感じます。大企業はCSR(企業の社会的責任)の意味が強い半面、中小企業は基本的にはコスト削減。中小企業では、コスト削減のための廃棄物削減が環境対策につながっているというところが本音かなと思っています。
 例えば、大手企業が取り組む「環境会計」は、環境保全に対する費用対効果を算定して評価しますが、これは外部発信が目的です。同じようなものに「マテリアル・フローコスト会計」がありますが、これは原材料の投入に対してどれだけロスが出るのかを算定して、ロスカットによるコスト削減、ひいては環境保全につなげていきます。
 京都府連で中小企業の方たちに講演をしたときに両方の話をしましたら、前者にはあまりピンときていただけなかったようでしたが、後者は大変好感触でした。
竹内 大企業では、製品やサービスを購入する際に、環境負荷のできるだけ小さいものを優先しようというグリーン調達という取り組みが進んでいまして、東証一部上場企業の約4割がグリーン調達、グリーン購入を行っています。グリーン調達のガイドラインを公開しているところもあり、部品や材料が対象となることがほとんどですが、中にはカーボンオフセットプリントといって、二酸化炭素や温室効果ガスの出所を調べて把握することまでも取り組んでいるところもあります。
 原材料の段階から廃棄されるまでを通して、製品にかかるCO2排出量を算出するので、サービス業の下請けまで対応が求められます。実際に、取引先にガイドラインを示された企業は19%、できるだけ取り組むようにといわれた企業が22%です。
 現在は義務に近い努力要請ですが、将来は義務になるでしょう。

竹内英二主席研究員

成功事例をたくさんつくり、小規模事業者に省エネを定着

寺田 小規模事業者が環境対策へのモチベーションを高めるためにはどうしたらよいでしょうか?
坂野 「これに取り組めば儲かる」と思えるような市場メカニズムをつくることが必要です。課せられた義務を達成することと市場メカニズムに取り組むことによって、売上に直接貢献する仕組みができればいいと思います。
 電力の固定価格買い取り制度は、今は家庭での発電量のみが取引対象ですが、事業所に広がれば、商工会が取りまとめて売買するのもいいかもしれません。
本多 省エネに取り組むことによって、利益率がこんなに上がるという成果を出していく必要があります。「省エネ診断事業」はまだ始めたばかりですが、診断企業数を増やして成功事例をたくさん出すことで、どんな企業でも取り組めるんだという雰囲気づくりを進めて省エネを定着させていきたいと思っています。  例えば中小企業庁で、環境対策へのお墨付きがもらえるような認証制度をつくってもらえれば、インセンティブになるのではないでしょうか。
竹内 環境問題は基本的には企業が努力すべきことですが、メリットが出る仕組みもつくった方がいいと思います。例えば、自治体がグリーン購入を進めたり、環境対策の度合いによって加点するように入札審査の基準を変更したり。規制を強化していく面とメリットになる面の両面から取り組んでいくことが必要になると思います。

環境情報を取りまとめ、小規模事業者に発信を

寺田 温暖化対策で商工会にどんなことを期待されますか?
本多 私が現場で感じるのは、経営者と従業員の意識の開きが大きいということです。従業員も参加できる環境対策セミナーなどを商工会が開催するなどして、企業一丸となった環境への取り組みを後押しできればいいと思います。商工会職員も現場にどんどん入っていって、啓蒙活動をしていかなければならないと感じています。

本多光一課長代理

竹内 調査の結果で、環境対策に取り組む際の問題の一つは、新しい制度や法律などの情報がわからないということ。どう対応すれば規制をクリアできるのか、実現している事例があれば教えてほしいという意見が多くありました。商工会で環境対策情報をまとめて、中小企業に発信していけばいいのではないかと思います。
 また、富山県連のように、環境問題としてだけでなく、経営問題という位置づけで取り組むよう指導されていくといいでしょう。
坂野 商工会には、笛を吹き続けてほしいと思います。環境問題は猫の目のように制度が動いていますので、そういった情報を把握しながら会員に伝えるとともに、やってみせることが大事だと思います。
 京都府連では、自社のCO2排出量を算出できる簡易版のデータベースが作成されています。こういったものが共有されれば役立つのではないでしょうか。
寺田 みなさんのお話を通して、環境対策と経営改善は表裏一体だと感じました。商工会の経営指導としても両方をビルトインさせていくことで、成果が得られそうですね。

寺田範雄専務理事

* 詳しくは月刊「Shokokai」6月号をご覧下さい。