Vol.17 2008.09.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

座談会「エネルギー高騰下における中小企業経営と環境対策」

出席者

横田俊之 中小企業庁長官官房参事官
中上英俊 株式会社住環境計画研究所所長
工藤拓毅 財団法人エネルギー経済研究所地球環境ユニット総括

司 会
寺田範雄 全国商工会連合会専務理事



寺田 CO2など温室効果ガスの排出削減を義務付けた京都議定書では、日本は六%の削減が目標とされ、これまでは主に政府機関が削減の舞台となってきましたが、これからは企業や家庭においても対応が求められることが予想されます。
 昨今の原油高、原材料価格の高騰により、中小企業の経営は日々苦しさを増しておりますが、環境への配慮をしつつ、原油高にどう取り組み、どのように省エネをして企業経営を行うべきか、三人の専門家に幅広くお話しいただきたいと思います。まず、自己紹介をお願いします。
中上  大学院を出てすぐに研究所をつくったという珍しい経歴の男です。大学院を出たのが一九七三年で、オイルショックが来て、お役所の方から省エネルギー法をつくるので協力してほしいといわれまして、大学院時代にエネルギー需要と居住環境の研究をしていて、まったく関係なくはないということで飛び込みました。以後、一貫してエネルギー需要分析に取り組んでいます。
工藤 エネルギーとは関係のない会社で社会人を五年やってエネ研に入った変わり種です。入った九一年は湾岸危機が一番盛り上がった時期で、研究所の中は上へ下への大騒ぎでしたが、何もわからず、ずっと見ていたという状況でした。
 二〇〇〇年から地球温暖化関係を担当するようになって、政策一般を見ています。
 国連の委員会に代理参加させてもらっていますし、ISO14000シリーズの温暖化効果ガスのマネジメントの企画づくりにも参加しています。


工藤拓毅
財団法人エネルギー経済研究所
地球環境ユニット総括

横田 中小企業庁全体の政策調整とか予算、人事を担当しています。
 中小企業庁では、これまで振興課課長補佐、商業課長などを務めてきましたが、本日のテーマに関わる仕事としては、平成十年から十二年まで資源エネルギー庁の省エネ・新エネ部の国際室長兼企画調整室長として、省エネ、新エネの国際協力に取り組みました。
寺田  原油価格の高騰の原因はどこにあるのでしょうか。
工藤 当研究所では、原油高は単一の理由ではなく、複合的な要因があると分析しています。中国、インドを中心とする新興国の経済成長に伴う需要増が原油価格を押し上げているというのは一般的な見方だと思います。供給のほうは、いろいろ制約があるようです。米国の石油精製設備の供給能力が慢性的にタイトであるため、たとえばハリケーン「カトリーナ」の被害で設備が止まったりすることで、価格が乱高下してしまいます。
 長期的にみると、北海やアラスカなどでのイージーオイルと呼ばれる経済性ある原油がとれにくくなっていますし、新規の大油田も見つけにくくなっています。中東地域では、未発見の油田がまだあるのではないかといわれていますが、地勢学的に見てリスクもあり、なかなか開発投資が進みません。開発投資環境も資機材の値上がり、労働力不足の顕在化などで悪化しています。
 一方で、資源ナショナリズムが生じ、たとえば中国では国を挙げて原油の確保に動くなど、市場に国が関与してきていることも、市場を一層不透明にしています。それに原油の価格が上昇すると見込んだ投機マネーが石油の現物、先物市場に流入して、価格上昇なり、価格変動を荒っぽいものにしているのだと思います。

下請駆け込み寺に相談を

寺田 原油高騰は収まりそうもないということですか。また、原油に次いで、鋼材などもこれからどんどん値上がりしそうです。小企業への原油、原材料費高騰による影響をどのようにとらえているのですか。中小企業庁として、どのような支援策を講じているのですか。
横田  石油、鋼材など主要な資材価格は昨年と比べて約二倍、二〇〇〇年に比べると五〜六倍になっており、中小企業経営に大きな打撃を与えていると認識しています。
 中小企業庁では現在、原油価格高騰の中小企業への影響調査を行っている最中で、新しい数字はまだつかんでおりませんが、昨年の十一月時点の数字では、原油高騰をまったく転嫁できていない企業が六割、収益が大きく圧迫されている企業が四割弱、やや圧迫を含めると、九割以上の中小企業が収益面で影響を受けている状況にあります。資材高による倒産も増え、二〇〇七年度は二九九件と倍増しています。
 中小企業庁では、原油高に対する緊急対策として二つの支援策を行っています。一つは金融面の措置で、一七〇業種を対象にセーフティネット保証を行っています。
 もう一つは下請適正取引の推進で、全国四七都道府県に下請駆け込み寺を設置、原油高によるコスト増の転嫁を不当に妨げる買いたたきにあわないよう相談に乗っています。現在まで八〇〇件ほどの相談が来て、細かく対応しているところです。また、一〇業種の下請適正取引のガイドラインをまとめ、そのリーフレットを二二万部つくって周知徹底を図っています。たとえば運輸業では、サーチャージ制度が導入され、料金追加が認められたケースが一三〇〇件出ています。


横田俊之
中小企業庁長官官房参事官

海外の評価を国内市場に生かせ

寺田  石油資源に恵まれない日本にとって、これからは石油代替エネルギーがより重要になってくると思いますが、それを確保する見通し、技術的、資金的問題など、どのような課題があるのでしょうか。
工藤  今わが国のエネルギー自給率は原子力を除いて六%、原子力を入れて一八%ほど。石油、石炭、ガスに続くエネルギーとして水がありますが、大きなダム開発は環境面からいっても経済性からいってもいずれ立ち行かなくなって、大きくは拡大しないでしょう。
 石油代替エネルギー、それも国産でということを視点に考えるなら、原子力が一つあって、それから、世界中どこにでもある再生可能エネルギーに絞られ、それをどう活用するかということになります。再生可能エネルギーの代表格は太陽光で、政府の見通しでは、今後その活用は四〇倍になるとみられ、風力の利用も五倍まで増える見通しで、太陽からくるエネルギーを活用する意識は非常に強くなっていると思います。
 もう一つ、日本の国土の七割が森林ですので、森林バイオマスをどのように使っていくかも重要でしょう。熱を燃料として利用できますし、自動車用燃料への活用も期待されています。かつ、バイオマスは森林のほか畜産系もあるので、そのあたりの特性を生かしていけば、日本では拡大していく可能性は高いです。
 輸送用燃料の代替としては、電気自動車の実用化が進むでしょう。技術開発は進んでいて、問題はクリアされていくと思います。原子力は、安全性や信頼度を高めることがこれからも重要だと思います。 中上 太陽光は夜になると発電しないし、風力は風が吹かなければだめ。太陽光を夜まで何とかしようとすると過大な投資を必要とすることになって、複雑な問題が発生してしまいます。太陽光発電を投資コストで一般の電力と比較してはだめで、先のサミットで話題となった雪による冷房も、まともに考えればコストからいって難しいことになってしまう。
 条件に沿って、需要と供給をバランスよく考えながら、代替エネルギーに対応した使い方が重要になるということだと思います。

エスコなど省エネビジネスの活用も道

寺田  温室効果ガス削減に、小規模企業はどう対応していけばいいのでしょう。
中上  小規模事業者は縁遠いものと思っているでしょうが、早めに目を向けて行動に移す機会を増やしていただきたい。そのため、中小企業庁で、小規模事業者の方々がわかりやすく議論できる仕掛けをつくってほしいと思います。


中上英俊
株式会社住環境計画研究所所長

横田 環境税を含めてコストをかけてエネルギー需要を抑制するという考えもありますが、日本から生産拠点を海外に移してしまい、産業空洞化を招く懸念があります。ただでさえ原油高で苦しんでいる中小企業が環境税の付加などで廃業に追い込まれる恐れもあります。
 さまざまな対策を打っていく基盤となる国民所得の部分を弱めないようにすることが重要で、温室効果ガスは、最小の費用で効果的に減らせばいいのですから、中小企業を担当する立場とすると、企業に負担をかけて全部国内で減らすのではなく、京都メカニズムを活用するなど、コスト負担を軽減する配慮をお願いしたいと思います。
 一方、中小企業にとって、負担ばかりでなくチャンスでもあるととらえています。中小企業がCO2を減らした分、それに協力した大企業が自分の排出量削減としてカウントできる国内CDM制度がこれから始まります。財団法人省エネルギーセンターの調査では、省エネ余力は大企業は四%ですが、中小企業は八%あります。省エネの余力が大きいので、中小企業は省エネに取り組み、省エネ実施分を大企業に売るといったビジネスチャンスが生まれると期待しています。
寺田 省エネを実現するための取り組み例として、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
中上 たとえばモーターで、大企業ではインバーターを付けているので、負荷がかからない時でもプーリーを空回りさせるようなムダはありえませんが、中小企業ではまだあったりします。インバーター方式に取り換えようとすると、イニシャルコストがかかるので、後回しになってしまう。
 省エネに必要な技術、設備、人材、資金などを包括的に提供して、省エネの保証までする「エスコ」(ESCO:Energy Service Company)という省エネビジネスが育ちつつあるので、そのようなビジネスを活用して省エネを進めるのも方法かと思います。信頼できるエスコ事業者と中小企業同士をつなぐ橋渡しが商工会としてできれば、もっと普及するでしょう。

省エネに商工会のマッチング機能を期待

寺田 地球温暖化対策の中で、商工会にはどのようなことを期待しますか。


寺田範雄
全国商工会連合会専務理事

工藤 省エネルギーセンターでは無料の診断を行っていますが、まだまだ知らない企業が多いらしいです。企業は政策や関連する支援措置に敏感になるべきだと思います。商工会はそうしたことに気付かせる扇の要となってもらいたいと思います。
 省エネを進めるには、良いパートナーと巡り合えるかどうかです。パートナーをマッチングさせる仲人の役割を期待したいです。
中上 これからはエネルギー問題や地球温暖化問題に無関心ではいられませんから、中小企業が自分たちの問題として見直すよう、リーダーとして横の連携を取りながら引っ張っていくことを期待します。
横田 地域の総合力で経営力のアップを図る地域力連携拠点のうち七八が商工会の拠点となっています。三つの要望がありまして、一つ目は、金融と組むなどこれまでの商工会の枠を超えた連携体制をとってほしいことです。二つ目は競争意識の導入。中小企業庁では各拠点のパフォーマンスを評価させてもらおうと思っています。三つ目は省エネなど具体的な成果を出していただきたいということです。大いに期待しています。

* 詳しくは月刊「Shokokai」9月号をご覧下さい。