Vol.12 2008.04.10
発行/編集 全国商工会連合会
http://www.shokokai.or.jp/

中小企業の生産性向上と企業数増加を目指す
〜平成20年度小規模企業政策を聞く〜

福水健文中小企業庁長官インタビュー

聞き手 寺田範雄全国商工会連合会専務理事



寺田  全国連の調査では中小企業の景況は五ヵ月悪化が続いています。国全体と地域によってバラつきがあると思いますが、長官は中小企業を取り巻く経済環境をどのように把握され、どのように見通されていますか。
福水 景況は、国全体としては緩やかな回復とされていますが、原油価格がどんどん上がり、海外ではサブプライムローンの問題、日本では建築着工の大幅な減少などの問題があって、年明け以降、全国的に悪くなってきていると聞いており、中小企業は全般的に元気がない状況にあると認識しております。
 そうしたことから、二月二十日に中小企業の年度末対策として金融対策、下請け対策をまとめ、周知のためのパンフレットをつくって、広く皆さんにご周知いただいて年度末に備えたわけです。
寺田 年度末対策としていち早く対応を取っていただいたことで、われわれ商工会としては大変心強く思っています。本日は、平成二十年度の小規模企業政策についてお話を伺うのが趣旨でして、長官はどのようなお考えのもとに、新年度の中小企業政策に臨まれたのでしょうか。
福水  わが国が人口減少社会を迎える中で、成長していくためには、四三〇万社ある中小企業が活力の源泉になることが必要です。一部の大企業だけが調子よくて、あとは元気がないということになれば、成長は難しいでしょう。個々の中小企業が元気になることで、初めて日本の成長につながっていくと考えています。したがって、二十年度中小企業関係予算、税制改正の策定にあたっては、中小企業が元気に活躍できることに基本を置いています。
 そのために何をするかですが、一つは中小企業の生産性を上げていくことが非常に大事であるとの基本に立っています。生産性を上げていただき、収益が上がってくれば設備投資が増え、従業員の給料も増え、消費も増える。そういうことで、いい経済成長のサイクル、循環が生まれると考えています。
 もう一点は、企業数を増やすことに置いています。日本から企業の数が減っているという大きな問題があります。開業率よりも廃業率の方が高くなってしまっているからですが、人口の減少と同じで、企業の数が減っていくと活力の低下につながりますので、中小企業の数を伸ばしていくことが重要と考えたわけです。それで、今行われている事業・経営の後を継ぐ人に元気に継承してもらおうと、事業承継に国として力を入れていくことになったのです。また、新しいものをつくるという、創業とかベンチャー、新分野進出を目指す方々にも十二分に光を当てて、事業・経営の後を継ぐ人と合わせて、新規創業した人もしっかりサポートしていこうと思っています。この二つを大きなコンセプトに予算措置を講じました。

農商工連携は地域の活性化につながる

寺田  中小企業関連予算は一〇年近くマイナスが続いていましたが、昨年度に減少の歯止めがかかり、今年度は六二億円という大幅な増額となっています。中小企業は経済活力の源泉であるという考えを現実の数字として示していただいたものと受け止め、大変ありがたいと思っています。
 長官は地域間格差、大企業と中小企業間の格差という問題に、どのように対処しようとしているのでしょうか。
福水 昨年、地域資源活性化の法律をつくり、地域の活性化を図っていることはご承知のことと思いますが、一次産業が中心の地域がどうも元気がない。われわれは農商工連携といっていますが、農林漁業者と中小企業者が組んで新しい事業やサービスをつくってもらうことが地域の活性化につながると思い、農林水産業と商業、工業の連携を鋭意進めているところです。
 大企業との格差問題ですが、基本的にはやる気のある中小企業を多くつくって、サポートしていくことが大事であるというのが中小企業庁の考えです。中堅、中小企業はもちろんですが、小規模事業者にも活躍してもらわないと全体の活性化につながりませんので、商工会の会員さんに多い小規模企業にもう一度光を当て、これまでと違う方法で何かできないか今考えているところです。

 

福水健文中小企業庁長官

寺田 長官が中小企業政策の基本コンセプトとしてあげられた中小企業の生産性向上の観点から創設されたのが、全国に三〇〇ヵ所の「地域力連携拠点」という支援拠点をつくる新規事業だと思いますが、どのような形で進めようとなさっているのですか。狙いと併せてお聞かせください。

支援拠点はやる気のあるところに委ねる

福水 中小企業庁長官になった時から、課題は中小企業政策を周知徹底させることに置いてきました。中小企業政策は各都道府県を含めいろいろやっているのですが、四三〇万の中小企業の方々にご理解いただいているかといえば、残念ながら私はそう思っておらず、知られていないことが多いのではないかと考えています。中小企業政策に携わる者として感じることは、先ほど年度末対策のパンフレットのお話をしましたが、PRをし、政策をいかに知っていただくかが大事だということです。
 何かあった時、四三〇万の中小企業が気軽に相談に行ける仕組みが大事だとずっと思っていました。そういう観点から、経営力の向上や事業承継等の問題を、ワンストップで支援につなげるための地域力連携拠点を全国に三〇〇ヵ所つくろうと考えていますが、一律にどこかにお願いするのではなくて、意欲あるところにやってもらおうということにしました。もう、一律に考え一律でやってもらう時代ではないと私は思っています。地域には事情の違いがあるので、それぞれの地域に合ったやり方があるし、それを見つけていかないとうまくいかないと思っています。
 したがって、拠点をつくるのは商工会連合会の場合もあるし、商工会議所も中小企業団体中央会の場合もあるなど、いろいろだと思いますが、東京から見て良いところというのではなく、四三〇万の中小企業個々から見て、気軽に相談ができたり、的確な対応がしてもらえるワンスポットであるという考えで構築を進めたいと思っています。
 農協との連携も図る必要がありますし、中小企業にとって非常に大事な地元金融機関の力をどう借りるか、使うかも、大事な要素となってくるでしょう。全国につくられる拠点に、地域の方、中小企業の方が行けば、すべてのことがヒントとなり、相談になり、解が得られるようになる、そんな仕組みができれば、広く活発に利用されるのではないかと思っています。

寺田 地域の中小企業の相談、指導が商工会の本来の役割として、これまでもやってきましたが、拠点事業についても、われわれは地域の中心となって、期待に応えられるようにしっかりやっていかなくてはいけないと思っております。
福水 小規模企業の生産性を上げていくためには、ご自分がどんな経営をしているのか理解していただかないと、次の改革なり、ステップなりが出てこないと思います。
 今、IT化が進んでいます。商工会がインターネットで経理を支援する「ネットde記帳」は、経理業務の負担を軽減するだけでなく、財務状況が理解できて大変いいと思います。これを支援拠点を通じて広げていけば、小規模事業者の生産性向上に大いに役立つのではないかと強く期待しているのです。
寺田 「ネットde記帳」は全国連の自主的な事業としてこれまで普及を図ってきたのですが、今回、こういう形で国の施策として取り上げられたことはわれわれには願ってもない話です。これを機会に中小企業の記帳を中心とした情報化に取り組んでいきたいと思います。
福水 「ネットde記帳」の利用者は六万五千人と聞いております。先日、商工会青年部の会長とお会いし、青年部は五万人の会員がいると聞きましたので、青年部が両隣のおじいちゃん、おばあちゃんに記帳を指導してくださいと頼みました。それで一〇万人増えるし、向こう三軒ずつしてもらえばいっぺんに三〇万人にもなる。青年部の力をそういうところに使うべきではないかと話したばかりです。商工会の経営指導員も頑張っておられますが、数が限られていますから、青年部などのそういう活動は商工会の大きな力となり、われわれから見て大きな魅力となる、そんな気がします。

都会から地方への人材の流れをつくりたい

寺田 新規事業として、新現役チャレンジ支援事業と農商工連携の支援も創設されましたが、これらの事業の狙いはどこにあるのでしょうか、新現役チャレンジ支援事業からお話しください。
福水 われわれの合言葉は「大企業から中小企業へ」「都会から地方へ」で、そうした人材の流れをつくりたいと思っているのです。
 サラリーマンをされて高度成長を引っ張ってきた方々が定年を迎えられるようになっていますが、今の時代、六〇歳、六五歳はまだまだ若いです。社会とのつながり、地域コミュニティとのつながりを持ちたいという方は多いと思いますし、一方で、中小企業はいろいろな経営課題を抱え、とりわけ人材確保は大きな課題となっていますから、そういう意味で定年を迎える方と中小企業、地域とのマッチングができないかというのが新現役チャレンジ支援事業です。この事業も新しい視点で進めていければいいなと思っています。
寺田 商工会地域の場合は、そうした人材を招き入れたいほうで、技術やノウハウを持つ方々を迎え入れて経営にいかに役立てるかだと思います。人材投資促進税制を利用するなどして対処していきたいと考えています。農商工連携については先ほどお話しいただきましたが、長官が力点を置かれているところはどういうところでしょうか。
福水 食の自給率の話や食の安全が問題となり、国民全体が健康志向になるなど、時代背景が大きく変わってきています。農林水産業にとっても難しい時代を迎え、いろいろ課題もあると思いますが、私たちの見るところ、農林水産業の方々は世界一いいものをつくっています。一方で、販売をしたり輸出したりすることは今一歩という気がします。そこで、農林水産業者と中小商工業者が組んで、つくるところから消費者に売って消費されるまでのサービスなり仕組みを構築することができれば、双方いい関係になると考えたのです。
 商工会と農協が組むなど地域ではいろいろなやり方が出てくると思いますので、農商工連携についても商工会に期待するところ大です。

商工会は中小企業のよき相談相手たれ

寺田 事業承継税制の改正は全国連の昭和四十四年全国大会で要望事項として取り上げて以来、毎年要望を続けてきましたが、今回抜本拡充され、長年の悲願がかなうことになりました。
福水 長らく要望を続け、それが花開いたことはひとえに中小企業関係者の活動の成果だと思っています。後継者がいないために廃業となるケースや相続税の負担により企業活動が停滞するケースが現実問題として起こっています。ベンチャー企業を支援するビジネスエンジェルをつくることも大事だが、後継者をうまく見つけるということをはじめ、事業承継を円滑化することも創業と同じかそれ以上に大事で、そういう意識の高まりが事業承継税制の抜本拡充を中核とする総合的支援策の取りまとめにつながりました。
 事業承継を円滑に進めるための新たな融資制度とか、開業と廃業のマッチングを支援する事業承継支援センターをつくりますので、商工会も支援拠点となって、事業承継に大きな貢献をされることを期待します。
寺田 マル経融資の大幅拡充のほか、JAPANブランド育成支援事業などの予算を確保していただき、商工会としては地域の総合経済団体として、これまで以上に地域産業の振興を進めていきたいと考えておりますが、長官がわれわれ商工会へ期待するものはどういうことでしょう。

 

寺田範雄全国連専務理事

福水 冒頭に申し上げたように、日本経済の大きな課題は中小企業にどう元気でやってもらうかということと、地域の活性化にあります。この二点で解をもっている大きな組織は商工会であろうと思います。商工会と、その会員の方が元気で活動することが日本経済のために非常に大事だと思っているので、商工会に入っていないと損だということを見えるような形にして、地域の中で組織率の向上に頑張ってほしいです。
 記帳の合理化とか、農商工連携、事業承継とか課題は数限りなくありますから、中小企業者一人ひとりのいい解の相談相手になってほしいなど、期待は山ほどあります。そのためには合併や人事の一元化などを中心に組織強化に努める中で、全国連、県連、商工会の職員一人ひとり、会員の一人ひとりが意欲をもって取り組んでいただければこんな嬉しいことはありません。

* 詳しくは月刊「Shokokai」4月号をご覧下さい。